2012/05/07
テルマエ・ロマエ
GWの最終日、家族で「テルマエ・ロマエ」を観てきました。いつも空いてるシネコンだからと高をくくって行ったら、ロビーは見た事もない盛況。しかもシネコンの中でも大きな方のシアターが満員という初めての光景を目にする事ができました(笑。
これだけの人数で上映の間中笑いが絶えないと、映画そのものに加えて雰囲気にも酔ってしまいますね。昔の娯楽映画黄金時代を思い出して、久しぶりに浮き浮きした気持ちで映画を観る事ができました。
『2012年日本映画
配給: 東宝
監督: 武内英樹
原作: ヤマザキマリ
脚本: 武藤将吾
キャスト: 阿部寛、上戸彩、北村一輝、竹内力、宍戸開、笹野高史、市村正親、他
「マンガ大賞2010」「第14回手塚治虫文化賞短編賞」を受賞したヤマザキマリの同名コミックを阿部寛主演で実写映画化。古代ローマ帝国の浴場設計師ルシウスが現代日本にタイムスリップし、日本の風呂文化を学んでいく姿を描くコメディドラマ。生真面目な性格で古き良きローマの風呂文化を重んじる浴場設計師のルシウスは、ふとしたきっかけで現代日本にタイムスリップ。そこで出会った漫画家志望の女性・山崎真実ら「平たい顔族(=日本人)」の洗練された風呂文化に衝撃を受ける。古代ローマに戻りそのアイデアを用いた斬新な浴場作りで話題となったルシウスは、時の皇帝ハドリアヌスからも絶大な信頼を寄せられるようになるのだが……。映画オリジナルのヒロイン・真実を上戸彩が演じる。監督は「のだめカンタービレ」の武内英樹。(映画.comより)』
先に書いたように雰囲気に酔ってしまった事もありますが、単純に面白かったですね。娯楽映画かくあるべし、という感じでしょうか。もちろん後から考えると細かい突っ込みどころ満載、脚本もややスカスカ間は否めないんですが、テンポ良く笑わせてくれるので観ている間はそれほど気になりませんでした。
映像も見事。舞台が古代ローマと現代日本に分かれるわけですが、古代ローマの壮大なセット、VFX、CGを駆使した描写は見事ですし、それに対して日本の場面場面が(ショールームは別として)おそらく意図的にショボく描かれているのも巧いと思いました。そのショボイ方の風呂やトイレの一つ一つに主人公ルシウスが感動するわけですから。また場面転換に何とプラシド・ドミンゴの歌唱をおふざけ気味に差し挟む脚色も面白く、功を奏していたと思います。
また、古代ローマ人役に阿部寛、市村正親、北村一輝といった「濃い」顔の俳優を配し、「平たい顔族」の日本人を笹野高史を中心とした老人を中心にキャストを据えた対比も上手かったですね。ヒロインも上戸彩ちゃんには失礼ですが、「平たい顔族」の中で可愛い子を選んだ絶妙の人選でしたね。惜しむらくは阿部ちゃんが出演場面の半分以上裸じゃなかったか、という大熱演だったのに比して、彩ちゃんの方は殆ど露出が無かったところ。折角の風呂映画なのに(笑。
またクラシックファンにはヴェルディをはじめとしてイタリアオペラの名アリア満載ですのでそれも楽しめます。
というわけで、とても楽しい娯楽映画であったと思います。まだまだ上映は続きますので気楽に映画を楽しみたい方にはお勧めです。
評価: C:佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)
2012/05/05
スーパームーン
(2012.05.05, 19:50)
「月夜のラプソディ」らしい話題を。今夜5月5日はスーパームーンが見られます。スーパームーンとは通常の満月より大きく明るい満月のこと。NASAによるとこの5月の満月は、2012年の他の満月より14%大きく、30%明るいそうです。
これは月の軌道が楕円形を描いているためで、月が地球に接近したときに満月になると、スーパームーンになります。NASAによりますと月が地球に一番近づくのは、日本では5日の昼の12時34分なので、日本でスーパームーンとなるのは5〜6日の夜となります。
先程見てきましたが、明るくて大きかったです。単純な感想ですが(w。
2012/05/04
マリー・ローランサンとその時代-巴里に魅せられた画家たち@小磯記念美術館
(帽子をかぶった自画像、絵葉書)
4/14-7/8の間、神戸市立小磯記念美術館で開催されている「マリー・ローランサンとその時代 - 巴里に魅せられた画家たち」展を観てきました。
『華やかさの陰に憂いを込めた女性像が広く知られ人気を博している、女流画家マリー・ローランサン(1883~1956)を中心に、芸術の都・パリに魅せられたフランスおよび日本の画家たちの作品や資料、計116点を紹介します。
世界最大のローランサンのコレクションを持つことで知られていたマリー・ローランサン美術館(平成23年9月閉館)の油彩、版画、資料などの計49点を軸に、ローランサンと同じくパリに生まれたルオーやユトリロ、ドラン、ヴラマンク、各国から集まりパリの画家となったキスリングやドンゲン、藤田嗣治、荻須高徳、さらにパリに客死した佐伯祐三やパリに憧れて留学した児島虎次郎、小磯良平らの作品群、そして当時のパリを席巻していたバレエ・リュス(ロシア舞踊)資料などが展覧されます。(オフィシャルHPより抜粋)』
マリー・ローランサンといえばすぐに黒一色の瞳と白い肌を基調とした柔らかい色彩の女性像を思い浮かべますが、まとまった数の作品を観た事はありませんでした。小磯記念美術館はそれほど大きな展示スペースを持っているわけではありませんが、今回は閉館したマリー・ローランサン館の作品群を中心に彼女の作品が30点以上展示されており、十分堪能する事ができました。
挿絵本などの展示を除くとその全てがOil On Canvasであるにもかかわらず、水彩或いはパステルを連想させる淡い色調の独特の女性像は彼女ならでは。
(ニルス・フォン・ダルデル、絵葉書)
それに加えて、後年滅多に描かなくなった男性像、たとえば「パブロ・ピカソ」や「ニルス・フォン・ダルデル」などが展示されていました。これらも描けそうで描けないローランサン独特のタッチで特にニルスには惹き付けられました。
他の同時代のパリ在住の画家の作品も併せて展示されていました。その中でも今回強く惹かれたのは児島虎次郎でした。倉敷の大原美術館のための絵画蒐集に尽力された方というイメージが強いのですが、もちろん画家としての力量も素晴らしい方であることは知っていました。が、その大原美術館でもそれほどの展示数があった記憶が無く、今回八点もの展示を観る事ができたのは収穫でした。同室の展示の中でもひときわ目を惹く精緻な筆致と深みのある明瞭な色彩は素晴らしかったです。
それ以外の日本人画家の作品群は殆どが知った人ばかりでしたが、一人だけ、三岸節子という女流画家は初めてでした。フォービズムを髣髴とさせる大胆な筆致と色使いのセンスが印象的でした。
7月まで開催されていますし、GWの今日もそれほどの混雑も無くゆったりと見られましたので、機会があれば是非どうぞ。それにしてもマリー・ローランサン美術館が閉館したあと、これらの作品群が散逸してしまわないか心配です。どこか、公共の機関がまとめて買い取ってくれればいいのですが、今の日本にそれだけの資力のあるところがあるかどうか。。。
2012/05/01
ももへの手紙
(フリーダウンロード壁紙)
家内と映画を観ようかという事になり、予告編を見て気になっていた「ももへの手紙」にしました。アニメは映画館で観るには結構あたりハズレがありリスキーなのですが、家内は十分満足したようで良かったです。
『2012年日本映画 配給: 角川映画
監督、原案、脚本: 沖浦啓之
キャスト: 美山加恋、優香、西田敏行、山寺宏一、チョー、坂口芳貞、谷育子、小川剛生、荒川大三郎、藤井晧太、橋本佳月
監督デビュー作「人狼 JIN-ROH」(1999)で国際的にも高い評価を受けた沖浦啓之が、同作以来約12年ぶりに手がけた長編第2作。瀬戸内海の小さな島を舞台に、1人の少女と亡き父親の残した書きかけの手紙を軸に、親子の愛情を描く。ケンカして和解しないまま父親が事故で他界した小学6年生の少女ももは、母のいく子とともに親戚のいる瀬戸内海の汐島に引っ越してくる。父親が「ももへ」と一言だけ書き残した手紙を手にしたももは、父親が本当は何を書きたかったのかが気になり、空虚な日々を過ごす。そんなある日、ももは「見守り組」と名乗るイワ、カワ、マメという3人組の妖怪に出会う。(映画.comより)』
私の場合、前々から度々言ってきたように「瀬戸内海」が出てくるだけで満足してしまう傾向があるのですが(笑、今回も舞台は瀬戸内海の小島。みかん栽培が主産業で高齢化が進む一方、瀬戸大橋につながる大きな橋が完成間近で島民は期待と不安合い半ばしているという設定の舞台が、丁寧な作画で巧く描かれていたと思います。
しかしながら、「父の死」と「母親の病気」といういささか陳腐な題材二連発による少女の成長譚は正直なところ新鮮味に欠けると言わざるを得ず、それで上映時間120分は冗長に過ぎる気がしました。キャラクターデザインも宮崎駿と細田守あたりの影響が強すぎて既視感ありまくり。
一番いけないのはクライマックスとなる台風の日の主人公の行動。どう考えてもあまりにも突飛で非常識なものなので、これには白けてしまいました。
それでも「藁舟流し」の風習を美しく描いた後、一艘だけ戻ってくる舟のエピソードは、それなりに泣かせてくれます。そして、これでふっきれた主人公が、今までできなかった島の子供たちへの仲間入りの通過儀礼である橋からの飛込みをやってみせるシーンは、御約束とは言え物語にカタルシスを与えてエンディングとなります。
声優もまずまず。妖怪役の西田敏行、山寺宏一、チョーの3人は安心して聞いてられますし、母親役の優香も意外に良かったですね。主人公の美山加恋もまずまず合格かといったところでした。
以上もう少し沖浦啓之ならではのオリジナリティを出し、練って濃縮しもう少し短くまとめて欲しかったとはとは思いますが、まずまず老若男女を問わず楽しめ泣けるアニメ映画にはなっていたと思います。
評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)
2012/04/30
博多小旅行
(那珂川のほとり)
この週末に福岡で学会があったので、出席がてら家内と二人で一泊二日の小旅行に出かけてきました。博多はもう随分以前に訪れたきりでしたが、九州新幹線の開業にともない博多駅はビックリするくらいきれいで巨大なビルに生まれ変わっており、町も綺麗で活気がありました。
行き帰りは、是非一度乗ってみたかった九州新幹線「さくら」号にしました。シートが2x2列でゆったりしており、座り心地もとても良かったです。
一日目の夕方は、博多の中心街を流れる那珂川(冒頭写真)のほとりを散策しました。名物の屋台はまだ早い時間であったからかちらほらでしたが、繁華街中洲へ出勤のお姐様方の姿を多くお見かけしました。
翌日は雲一つ無い快晴で、半日市内ループバスを利用して市内を見て回りました。写真はマリンタワーで、ヤフードームやシーホークのあるホークスタウンの西側に位置しています。
5回展望台はビルの40階に相当するそうで、福岡市内、福岡湾が一望できました。
シーホークとヤフードームが見えます。村上龍の「半島を出よ 」の壮絶なラストシーンを思い起こしていました。
博多市内は桜も終わり、5月3,4日の博多どんたくへ向けて何となく浮き立っているような雰囲気でした。が、あまりサボっているわけにも行かないので、博多一幸舎でお昼を食べた後、家内と別れて学会へ向かいました。短時間でしたが楽しい博多旅行でした。
2012/04/16
アーティスト
今年の第84回アカデミー賞は奇しくもサイレント映画へのオマージュ2作品が5部門ずつを受賞する、という結果になりました。片やデジタル技術や3Dなど、最先端の映像技術の粋を尽くした「ヒューゴの不思議な発明」、そしてもう一作が対照的にあえてこの時代にモノクロ・サイレントの技法を選んだ「アーティスト」でした。そして受賞部門数は同じでも、「作品賞」「監督賞」「主演男優賞」といった主部門を制した「アーティスト」が事実上圧勝した、という見方が報道の大勢を占めていました。
日本では「ヒューゴ」の方が先に公開され、先日レビューしましたようにとても良い映画でしたので、一方のこの「アーティスト」が一体どのくらい素晴らしい出来なのだろうと期待しておりました。先日公開され、ようやく観ることができましたが、ヒューゴと優劣を競うほどの大作ではなく、アカデミー賞選考委員の好みにピタッとはまったんだろうな、というのが正直な感想でした。もちろん出来が悪いというのではありません。アカデミー賞等の余計な先入観や過度の期待なしに見れば、素直に楽しめ、とても心温まる佳品であると思います。
『2011年フランス映画 配給:ギャガ
監督、脚本: ミシェル・アザナビシウス
キャスト: ジャン・デュジャルダン、ベレニス・ベジョ、ジョン・グッドマン、ジェームズ・クロムウェル、ペネロープ・アン・ミラー、マルコム・マクダウェル他
舞台は1927年のハリウッド。スター俳優のジョージ・バレンタインは若い端役女優のペピー・ミラーを見初めてスターへと導くが、折しも映画産業は無声からトーキーのへの移行期。無声映画に固執し続けるジョージが落ちぶれていく一方で、ペピーはスターダムを駆け上がっていく。(映画.comより)』
誤解の無いようにまず申し上げておきたいのは、単純なモノクロ・サイレントだから大作でないといっているわけではありません。特に映像は陰翳の深さ・滑らかさが素晴らしく、単純に当時のサイレントを模して白黒フィルムで撮ったものではないことがすぐに分かります。実はこの映画、まずカラーフィルムで撮影し、それをグレイスケールにコンバージョンしているのです。だから黒と白の間の階調が豊かなのです。ということはメークから衣装、小道具、大道具に至るまで全てカラー用に、慎重に製作・選択されているはずですし、ロケ地にもこだわったはずです。
例えばジャン・デュジャルダン扮する主人公の落ちぶれていくサイレント時代の名優ジョージ・ヴァレンティンは、明らかにダグラス・フェアバンクスをモデルにしていると思われますが、実際ベレニス・ベジョ扮する、大スターに登りつめていくぺピー・ミラーの豪邸のベッドルームは、メアリー・ピックフォードの実家で撮影されたそうです。メアリー・ピックフォードと言えばケイティ・メルアの同名曲(Pictures所収)を思い出してしまいますが、その中にも歌われているように、彼女はダグラスと結婚しています。
また、この映画は完全にサイレントというわけではありません。もちろんサイレント時代にも劇場で生バンドが演奏しBGMをつけていたりする事はあったわけで、この映画でも冒頭、映画中映画で音楽が流れ、その後劇場でオーケストラが演奏している、というオチを実際に描いていて当時を偲ぶよすがとしています。ただ、それだけではなく、この映画には効果音はふんだんに用いられていますし、途中トーキーのスターとなるぺピーの歌も挿入されています。そしてラストシーンでは効果的にトーキーに転換して終わります。
というわけで、「ヒューゴ」とは違ったアプローチでこの映画は素晴らしい映像・音声を観るものに提供しています。
その上であえて大作ではない、と申し上げたのは、やはり基本的にサイレントを模している以上、時折差し挟まれる字幕だけでわかるシンプルな脚本、そして当時の技術で可能な範囲内での演出、という制約からくるものです。
しかし「監督賞」を取ったくらいですから、ミシェル・アザナビシウス監督はその制約内で相当凝ったことをしています。まず彼は350本近いサイレント映画を観た上で構想を練り、随所に有名な映画の名シーンを髣髴とさせるシーンを取り入れています。それが過剰で鼻につくという批判もありますが、全てを指摘できる人はそうそういないはずで、私はそれほど気になりませんでした。
また、映画中サイレント映画の演出にはわざとらしい動きを多く見せる一方で、実際のストーリーは無声映画でありながらごく普通の大げさ感の無い演出をしてその対比をうまく見せています。おまけにトーキーの花形女優となったぺピー・ミラーにサイレントの大げさ感を新聞社の取材で批判させ、それがジョージの怒りをかうというストーリー展開まで用意しています。
ここまで凝ったことをしてシンプルな脚本と演出でシンプルなサイレント映画に見せかける、というのは確かに大変な熱意と努力ですが、逆にそれを悟られてはいけないという矛盾も内包しています。
ですから、落ちぶれていく名優と彼を慕いながらスターの階段を駆け上がっていく女優の純愛物語といういささか陳腐なストーリーを、台詞無しで100分以上見せられれば、途中退屈でだれてしまう人がいてもおかしくありません。実際私が見た劇場ではあちこちで居眠りをする人のいびきが聞こえてきました(苦笑。
まあそれはさておいて、そんな退屈からこの映画を救っているのは、やはりダグラス・フェアバンクスをはじめとする、時代に取り残されていく俳優たちへの限りない愛情に満ちた脚本と、パルムドール賞まで受賞した犬のアギーを含めた出演俳優たちの熱演でしょう。特に最後のジャン・デュジャルダンとベレニス・ベジョによるタップダンスは圧巻でした。このシーンのために二人は半年も特訓を重ねたそうです。
個人的には、
・まだエキストラだったぺピーがジョージの楽屋に入り込み、彼のスーツに手を通して演じるパントマイム、
・それをジョージが見つけて、「スターになるには他の人には無い何か特別なものが必要だよ」と、マリリン・モンローの実話を髣髴とさせる、あるメイクを施してあげるシーン、
・そして落ちぶれ果てたジョージが拳銃自殺を企てて、「BANG!」という字幕と効果音が入った直後のいかにもサイレントらしい演出シーン
などがとても印象に残りました。
そして先程も少し述べましたが、ラストシーンが素晴らしい。ぺピーの努力によりジョージが映画に復活することとなり、二人で圧巻のタップ・ダンスを踊り終えた後、監督の「Perfect!」という声とともに映画がトーキーに 転換する見事な演出、そしてジョージが唯一しゃべる台詞が、観るものに心地よい感動を与え、映画は幕を閉じます。
以上映画好きにはたまらないシーンを満載したノスタルジー溢れる映画ですが、実は現代の技術をもってして初めて可能となった映画だと思います。そういう意味で、今の時代にこういう映画がアカデミー賞を獲得するということは当然あってしかるべきであると思います。が、それをカムフラージュしてシンプルなモノクロ・サイレントに見せかけている分、この長尺だとやや退屈という瑕疵がないとは言えません。
奥歯に物の挟まったような締めになってしまいましたが、まあ、特に古い映画が好きでもないのに「アカデミー賞5部門受賞!」という派手な惹句に惑わされて観にいくと後悔するかもしれませんのでご注意を、とだけ申し上げておきます。
評価: B: 秀作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)
2012/04/09
モテキ
はむちぃ: 皆様お久しぶりでございます、ゆうけい家筆頭執事のはむちぃでございます。今回は昨年公開の映画「モテキ」のレビューに引っ張り出されてまいりました。
ゆうけい: こういうおにぎやかな映画のレビューを一人でしんみりやるのは寂しくてね(^_^;)、よろしくはむちぃ君。
は: たしかにDVDのカバー写真もド派手なお祭り騒ぎでございますね。おまけに主演女優が四人、それもご主人様にとって直球ど真ん中の好みの方ばかりでございます。
ゆ: 長澤まさみ、麻生久美子、仲 里依紗、真木よう子、よろしいなあ、TVドラマも合わせると合計8人かっ、羨ましいぞ、森山未來君!
は: その台詞は「百万円と苦虫女」の時も聞いた気がいたしますが(-.-)
ゆ: いやいや、あの時は蒼井優ちゃんだけにもっと力が入っていて
森山未來君うらやましいぞっ、なっ、はむちぃ、違うかっ!
となっておりましたな。それにしてもものいい(漫才コンビ)、このごろ見かけませんな、吉田サラダ君どうしているんだろ?
は: ご主人様、話がそれております(ーー;)、付き合いきれませんのでさっさと映画紹介の方、いかせていただきます。
『2011年 日本映画 配給:東宝
監督・脚本: 大根 仁
原作: 久保ミツロウ
キャスト:
森山未來
長澤まさみ 麻生久美子 仲 里依紗 真木よう子
新井浩文 金子ノブアキ リリー・フランキー
藤本幸世、31歳。(森山未來)。金なし夢なし彼女なし。
派遣社員を卒業し、ニュースサイトのライター職として新しい生活を踏み出そうとしているが、
プライベート(=恋愛)の方はまるで充実しないまま。
新しい出会いも無く、恋する事も忘れ、ロンリーな日々を送っていたが…
ある日突然、異性にモテまくる奇跡のシーズン「モテキ」が訪れた!
趣味が合い見た目もど真ん中タイプなのだが彼氏持ちの雑誌編集者・みゆき(長澤まさみ)。
みゆきの親友で清楚な美形OL・るみ子(麻生久美子)。
ガールズ・バーのハデかわ嬢・愛(仲 里依紗)。
クールビューティな先輩社員・素子(真木よう子)。
まったくタイプの異なる4人の美女の間で揺れ動く幸世。
「こんなのはじめてだ…今まで出会った女の子と全然違う…冷静になれっ!…期待しちゃダメだぁ…」
めくるめくモテキと4人の美女に翻弄されながら、
幸世は本当の恋愛(含むセックス)にたどりつけるのか??(AMAZON解説より)』
は: 本作は原作の久保ミツロウ様が映画のために、TVドラマ版の1年後を舞台に完全オリジナルストーリーを描き下ろしたそうでございます。
ゆ: そうなんですか、とにかく4人の女優をどう森山君と絡ませるかだけを考えてるかと思いきや、一応起承転結のあるドラマになっていたのはそういうことなんですね。
は: ラブストーリーにサブカル、ポップカルチャー系のフレイバーを加えたスピード感とリズム感のある演出、更にはミュージカル風にPerfumeまで登場させて「Baby Cruising Love」を挿入するところなんかは素晴らしかったですね。
ゆ: でもその割りに芯になるストーリーが実は古臭いパターンなんですよね~。しかも後半はややグダグダ感が否めない展開で、お世辞にも褒められたもんじゃなかったですねえ。
は: 評価のしにくい映画でございますね。
ゆ: まっ、結局、女優さんと森山君の絡みを楽しむ映画だと割り切ればいいわけで、そういう意味では「四人にもてる」、というのは看板に偽りありですよ~。
は: 真木よう子様は会社の上司で叱咤激励役のみでございましたからね。
ゆ: 仲ちゃんも別に惚れてるわけじゃないしね、ただちゃんとそれなりの見せ場は作ってありましたが(笑。どんな映画に出てもいい味出しますなあ、この子は。
は: というわけで結局長澤まさみ様と麻生久美子様のお二人がメインキャラクターで森山様との恋の鞘当てになるわけですが、
ゆ: 個人的には麻生久美子ファンなので、まああの程度の露出、演技ですんでホッとしております(苦笑。一方の長澤まさみは長いスランプを振り払おうとするかのような熱演でしたねえ。
は: 胸は揉まれるわ、口移しで水を飲ませるわで、はむちぃメ、心臓が飛び出しそうにドキドキしてしまいました。
ゆ: この映画にかけてたんでしょうかね、とにもかくにも大ヒットしてよかったですな。
は: というわけでございまして、純愛映画「セカチュー」のお二人がこんなになっちゃたか感の否めないはむちぃでございますが、お気軽に楽しめるラブコメ映画でございます。
ゆ: 私は「セカチュー」を全然評価していないのでどうでもいいんですけど(笑、長澤まさみ健在をアピールできた点、その一点で評価できる作品じゃないですかね。
評価: D: イマイチ
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)
2012/04/02
一枚のハガキ
御歳98歳でメガホンを撮られた新藤兼人監督の「一枚のハガキ」です。この作品を以って引退される、ということも話題になりましたし、2011年のキネマ旬報第一位にも選出され、注目を集めました。
『2011年 日本映画 近代映画協会制作、テアトル東京配給
監督・脚本・原作:新藤兼人
キャスト; 豊川悦司/大竹しのぶ/六平直政、柄本明、倍賞美津子、大杉漣、津川雅彦/川上麻衣子 絵沢萠子、大地泰仁、渡辺大、麿赤兒
戦争末期に徴集された100名の中年兵は、上官によるクジ引きによってそれぞれ次の戦地が決められた。宝塚に赴任する松山啓太は、フィリピンへ赴任することになった戦友・定造に妻・友子からの一枚のハガキを託される。
――今日はお祭りですが あなたがいらっしゃらないので 何の風情もありません――
「検閲があり返事が出せない。そして俺は死ぬだろう。お前が生き残ったら、このハガキは読んだと妻に伝えてくれ」と、啓太は定造から依頼された。そして、終戦。100名の内、生き残ったのはたった6名。生き残った啓太はハガキを書いた友子を訪ねる。友子は夫の亡き後、立て続けに家族を失い、古い民家とともに朽ち果てようとしていた。戦後、全てを失った二人が見つけた“再生”への道とは…。(AMAZON解説より)』
ご自身も戦争召集経験のある監督の執念にも似た思いいれが感じられる反戦映画です。くじで生死が決められる中年兵。兄が死ぬと家を絶やさないために弟と結婚させられる未亡人。九死に一生を得て帰郷したら、なんと父と嫁が駆け落ちしていて近所の物笑いのタネになる帰還兵。声高に反戦を叫ぶのではなく、そのような理不尽な人間模様をペーソス溢れる泣き笑いにくるみ、不幸のどん底からでも、踏まれて伸びていく麦のように人間はへこたれずに生きていくのだ、という人間賛歌で終わっているところに98歳という齢を重ねた人間新藤兼人の真骨頂を見る気がします。
俳優陣も超一流。主人公大竹しのぶの演技は鬼気迫るものがあり、やはりこの人は天才であり、演技の鬼だな、と再認識しました。柄本明の土下座して頼みながらその後にやっと笑う表情なども、さすがと思わせます。憎めない憎まれ役の大杉漣の奮闘振りも光ります。その他豊川悦司や六平直政をはじめ殆どの登場人物がさすが、と言わせる演技を見せます。
アイドルや若手人気俳優が幅を利かせる日本映画界ですが、こういう人たちの熱演を見ると、演技のレベルがやはり一段も二段も違うなと思います。
と、ここまで誉めるとキネ旬一位に相応しい傑作、と締めくくるべきなのでしょうし、方々の映画サイトやブログを覗いてみても絶賛の声ばかりなのですが、、、
残念ながら個人的にはごく平凡な映画だな、という印象でした。演技の凄さに演出がついていかず、クロマキー丸分かりのシーンなど安っぽさが諸所に見受けられる映像にも疑問符がつきます(この点はおそらく低予算が一番の問題なのでしょうけれど)。
もちろん、だからと言って見る価値のない作品ではありません。過大評価することなく、老監督の思いの詰まった愛すべき小品、として観れば納得のできる作品であると思います。
評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)
2012/03/28
もやしもん (11)
もやしもんも早11巻目、第一巻で農大に入学した主人公沢木ですが、いまだに1年生で、本巻でようやく年の暮れを迎えようとしております。なんとスローな展開。ちなみにこの間、アニメと実写化で二回TVドラマ化されましたが、もうすぐ二回目のアニメ版が放映されるそうです。
『真冬にミスコン「ミス農大落とし」が突如開催されることに。
賭で金儲けを企む美里や謎の刺客を送り込む樹。男達の欲望と思惑を巻き込みながらノミネートされた6人の女(?)達!現ミス農大・武藤が王座を死守するのか、それとも新女王の誕生か!イブニング連載時に読者投票で新ミス農大を決める、という無謀な実験を行ったもやしもん。11巻は全編「ミス農大落とし」!!武藤、蛍、及川、中山、小坂、西野、みんな寒い中頑張ってます!!(AMAZON解説より)』
今回の主たるストーリーは酒豪(酒乱?)武藤の暴走により始まった農大のミスコン選びなおし選挙「ミス農大落とし」。イブニング連載当時、現実に読者投票をして、新ミス農大を決定したという企画は新鮮ですが、単行本化された段階で読む私にはちょっとだるかったです。というか結城蛍同様、日本酒作りが遅々として進まないのでイライラしたりして。
沢木が携帯で醸造蔵のオリゼーに進捗状況を聞くというネタがまあまあ面白かったのと、最後にやはり真打長谷川遥が登場したのとで、ちょっと溜飲は下がりましたが。
今回の新キャラ、日本酒が見るのも嫌いな謎の女子高生西野の正体が、次号以降で明らかになりそう、という興味はありますが、まあとりあえず日本酒つくりに励んでいただきたい(笑。
薀蓄に関しては、今回は日本酒とポリオワクチンというかけ離れた二つの話題がメインでした。日本酒に関してはストーリーの王道ですので文句なしですが、ポリオワクチンに関しては唐突な印象を受けましたし、作者もストーリーとは全く関係ないと断っています。いまだに生ワクチンを使っている日本の後進性にたいして一言言いたかったんでしょうね。詳しく知りたい方は是非お読みください。
2012/03/24
Secret Symphony / Katie Melua
Katie Meluaの新譜が届きました。前作「The House」で育ての親ともいうべきプロデューサーであるマイク・バットから少し距離を置き、独り立ちを目指したケイティでしたが、以前レビューしたように、残念ながら成功作とは言いがたかったと思います。
本人もそのあたりを自覚していたのか、本作では再びマイク・バットがプロデュースと編曲を全曲で担当し、美しいメロディ・ラインと多彩なアレンジが復活、ケイティの歌声も吹っ切れたのびやかなものとなっており、快作だと思います。
1. Gold in them Hills
2. Better than a Dream
3. The Bit That I Don’t Get
4. Moonshine
5. Forgetting All My Troubles
6. All Over the World
7. Nobody Knows You When You’re Down and Out
8. The Cry of the Lone Wolf
9. Heartstrings
10. The Walls of the World
11. Secret Symphony
11曲のうち、マイク・バットが6曲の作曲に関わっており、ケイティ一人で作った曲は5だけとなっています。カバーは3曲で1がRon Sexsmith、4がTravisのFran Healy、7はベッシー・スミスの歌唱で有名になった古いブルースで作者はJimmy Coxという人です。
基本はアコースティックのギター、ベース、ドラムというシンプルな構成で、このアコの音色はとても美しいのですが、更に「The Secret Symphony Orchestra」というマイク・バットがタクトを振るオケが各曲の編曲を多彩にしています。まあ早い話が「Pictures」の世界が戻ってきた感じですね。一曲目はRon Sexsmithのカバー曲なんですが、もう完全にマイク・バット・サウンドになっており、彼のサウンドが好きな人には安心して聴けるアルバムとなっております。スタンダードの7なんかは当時のブルース・アレンジを踏襲しており、これも粋な編曲。
そのサウンドをバックに歌うケイティはのびのびとしており、あのどこか郷愁を誘う声にさらに艶がのって良い雰囲気を醸し出しています。全曲平均点レベルをクリアしていると思いますが、自作の5「Forgetting All My Troubles」、バットとケイティの共作で粋な歌詞としっとりとしたケイティ節が印象的な8「The Cry of the Lone Wolf」、タイトル曲である終曲「Secret Symphony」などがとても美しいバラードで、本アルバムの聴き所でしょう。とは言え、代表作ともいえる「The Closest Thing To Crazy」をしのぐような、おおっと驚くキラー・チューンには今回もお目にかかれなかったのはいささか残念。
最後に録音ですがDramaticoレーベルの音質はとても良いと思います。ということで輸入盤が買い、だと思います。
2012/03/19
21 / Adele
本年の第54回グラミー賞に主要3部門を含む6部門でノミネートされ、ノミネートされたすべての賞を獲得した事で話題となったアデルという歌手、名前は知っていたのですが聴いたことはなく、以前から気になっていました。そこで、2年前のデビューアルバム「19」と今回の受賞作「21」をしばらく聴きこんでみました。アルバム名は彼女の年齢を示しているごくシンプルなものですが、歳に似合わない歌唱力を誇示したネイミングなんでしょう。
実際内容は宣伝ほどには派手派手しいものではなく、シンプルな編曲のトーチソングが殆どの女性ボーカルアルバムでした。このようなごく真っ当なアルバムがビッグセールスをあげ、賞も取る向こうの音楽界はこちらに比べると健全だなあ、と思いますね。
「21」(日本盤)
1. ROLLING IN THE DEEP
2. RUMOUR HAS IT
3. TURNING TABLES
4. DON’T YOU REMEMBER
5. SET FIRE TO THE RAIN
6. HE WONT GO
7. TAKE IT ALL
8. I’LL BE WAITING
9. ONE AND ONLY
10. LOVESONG
11. SOMEONE LIKE YOU
12. I FOUND A BOY (JAPAN BONUS TRACKS)
13. TURNING TABLES (LIVE ACOUSTIC) (JAPAN BONUS TRACKS)
14. DON’T YOU REMEMBER (LIVE ACOUSTIC) (JAPAN BONUS TRACKS)
15. SOMEONE LIKE YOU (LIVE ACOUSTIC) (JAPAN BONUS TRACKS)
一作目「19」は全体に地味目でモノトーンな印象を受けましたが、この「21」になって曲ごとのメリハリがつき、メロディラインも多様になってきた印象を受けます。声質は所謂スモーキー・ボイス、キーは低めで時々声が割れるところもありますが、その大柄な体を生かした豊かな声量と天性の歌唱力で聴かせてくれます。
「Traffic Stopper」とか言われて世間ではもう天才扱いですが、例えばエヴァ・キャシディなどと比べるとやや物足りない面もあります。とは言えまだまだ21歳という若さ、ボイストレーニングを積み、人生経験も深めていけば、もっと大化けするかもしれません。
先程も述べましたが歌詞はややひねくれた失恋歌が殆どで、例えて言うとアメリカ版中島みゆき的な印象を受けます。アメリカではやや派手目の「Rolling In The Deep」と「Set Fire To The Rain」「Someone Like You」がシングルカットされてヒットしたそうですが、個人的にはバラードの「Turning Tables」「Don't You Remember」「Someone Like You」が圧倒的に良かったです。日本人好みと判断したのか、日本盤ボーナストラックにはこの3曲のライブバージョンも収録されています。これを聴くとやはりうまいなあ、生で聴いてみたいなあ、と思いますね。
2012/03/12
ヒューゴの不思議な発明(2D/3D)

(オフィシャルHPのフリーロードダウン映像)
以前ご紹介した「ディパーテッド」で念願のオスカー(アカデミー監督賞)を手にしたマーティン・スコセッシ監督が、ガラッと作風を変え、しかも自身初の3D映画として、フランスはパリを舞台とした素敵なファンタジー映画を作り上げました。それが現在公開中の最新作「ヒューゴの不思議な発明」です。本年私が観た映画の中でも出色の出来栄えで、老若男女を問わずお勧めしたい作品です。
ちなみに私の行きつけのシネコンでは「3D吹き替え版」と「2D字幕版」しかチョイスできず、仕方なくまず2D字幕版を観たのですが、その映像の美しさにどうしても3Dが見たくなり、家内を誘って3D吹き替え版も観てしまいました。その家内も「素晴らしい!」と絶賛しておりました。
『 Hugo
2011年アメリカ映画配給、:パラマウント
上映方式: 2D/3D
監督: マーティン・スコセッシ
原作: ブライアン・セルズニック
脚本: ジョン・ローガン
キャスト: エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツ、サシャ・バロン・コーエン、ベン・キングズレー、ジュード・ロウ、レイ・ウィンストン、クリストファー・リー他
世界各国でベストセラーとなったブライアン・セルズニックの冒険ファンタジー小説「ユゴーの不思議な発明」を、マーティン・スコセッシ監督が3Dで映画化。駅の時計台に隠れ住む孤児の少年ヒューゴの冒険を、「映画の父」として知られるジョルジュ・メリエスの映画創世記の時代とともに描き出す。1930年代のパリ。父親の残した壊れた機械人形とともに駅の時計塔に暮らす少年ヒューゴは、ある日、機械人形の修理に必要なハート型の鍵を持つ少女イザベルと出会い、人形に秘められた壮大な秘密をめぐって冒険に繰り出す。主人公ヒューゴを演じるのは「縞模様のパジャマの少年」のエイサ・バターフィールド。イザベル役に「キック・アス」「モールス」のクロエ・モレッツ。2012年・第84回アカデミー賞では作品賞含む11部門で同年最多ノミネート。撮影賞、美術賞など計5部門で受賞を果たした。(映画.comより)』
この映画は第84回アカデミー賞において、「アーティスト」と5部門ずつ分け合ったことでも話題になりました。奇しくも双方とも映画創成期のサイレント映画へのオマージュとなっています。「アーティスト」の方はストレートに白黒サイレントで撮ったのに対し、マーティン・スコセッシは最先端の3D画像でこの作品を作り上げました。
その美しさは映画冒頭から堪能することができます。映画製作・配給会社のロゴが消えぬうちから時計の音が聞こえ始め、時計塔の中のたくさんの歯車が回る映像が登場、それがエッフェル塔が遠くに見えるパリの俯瞰夜景映像に変わり、次いで雪の降る日中の映像に変化、そしてカメラは吸い込まれるようにリヨン駅に近づき、見えてきたホームをすべるように走ります。もちろんCGが用いられているのでしょうが、一体どういう風に撮影したのか、本当に見事な3D映像です。
さて、このような高度な技術が微塵もなかった20世紀初頭のパリにおいて、たとえば「月世界旅行」(月の顔の右目に砲弾のようなロケットが突き刺さり、月が涙を流す映像は誰もが一度はご覧になったことがあると思います)のような「特撮」映像をどのように当時の人々が工夫して撮っていたのか?
この映画の後半においてスコセッシ監督は、この映画の影の(というか、本当の)主人公である元・手品師の映画製作者ジョルジュ・メリエスの独白を映像化することにより、見事に再現してみせます。(ちなみにメリエスは実在の人物で「月世界旅行」の製作もしています。)
総ガラス張りの巨大なスタジオのセット、その中で繰り広げられる撮影風景、メリエスのアイデアと天才的編集の場面、総てが素晴らしく、この映画がアカデミー撮影賞、美術賞、視覚効果賞を取ったのも当然と頷けました。
この映画の3D映像は本当に良く考え抜かれており、こけおどし的なところは少しもない良質なものでしたが、最後の最後に「月世界旅行」の月を3D化した映像にはスコセッシ監督の万感の思いが込められているように感じられ、思わずほろりとしてしまいました。
さて、映像のことばかり先走ってしまい、肝心のストーリーが後回しになってしまいました。以下幾つかネタバレもありますのでご注意ください。
この映画には幾つかのテーマがあります。それは父母をなくした少年の魂の成長を描くこと、映画作りに挫折し「壊れて」しまった老人を「再生」すること、生きていることにまだ意味を見出せないでいる人のために「この世界が一つの機械なら余計な部品は一つもないはずだ」と教えてあげること、そして第一次世界大戦という戦争の残した爪あとを描くことにより暗に反戦を訴えること。
これらを有機的につなぐために登場するのが「不思議な発明」たる、自動筆記機械人形です。この機械人形は実は主人公ヒューゴの発明ではなく、先程述べたジョルジュ・メリエスが手品師時代に作ったもので、挫折しすべてを売り払った際に、これだけは捨てられない、と博物館に寄贈したものでした。それは飾られることもなく倉庫に眠っていたのでメリエスは火事で失われたと思っていました。ところがその人形は博物館の修理係であったヒューゴの父が見つけ出し、自宅で修理していたのです。その修理の半ばで父は火事で死んでしまい、ヒューゴがリヨン駅の時計係だった叔父に連れられてそこへ移住する際、唯一持ち出した荷物なのでした。
この機械を修理すれば死んだ父の残したメッセージが分かるはず、と思い込んでいるヒューゴはこの機械の修理を続けます。そのために駅構内のおもちゃ屋から度々ゼンマイなどの部品を盗みますが、その店の老主人こそ誰あろう。。。
ということで話は心地よいテンポで進み、老主人夫婦の家で暮らす父母を失った少女イザベルの協力も得て、中盤でついに自動人形は動き出し、ある絵を描きます。ヒントはもうここまで書いた中にあるのですが、ここでは書かないでおきましょう。とにもかくにもそれは残念ながらヒューゴの期待した父からのメッセージではなく、驚くべき人のサインが入っていたのです。ここからまたヒューゴとイザベルの冒険が続いていくのですが、これは観てのお楽しみ。
そしてこの物語に彩を添えるのが、リヨン駅の風景と登場人物たち。左足を戦争で失い、粗末な義足で警察犬とともに働く鉄道公安官、彼がそっと慕う花屋の娘、温かく見守るカフェの老マダム、そのマダムを慕いながらも彼女の愛犬に嫌われる太っちょのおじさん等々。先程「誰にでも生きている限り必ず役目がある」ということが一つのテーマであると申し上げましたが、それを実践するような見事なバイプレーヤー振りを皆が発揮するように原作を改変した脚本も見事といえましょう。例えば鉄道公安官は原作ではただの悪役なのだそうですが、この映画ではその義足で分かるように、とても大事なテーマを持たせた上で、最後の最後にヒューゴを救います。
脚本といえば幾つかの伏線も見事です。例えばヒューゴとイザベルが忍び込んだ映画館のサイレント映画でキートンが演じるドタバタの場面をあとでヒューゴが演じることになったり、ヒューゴが夢の中で観た汽車に轢かれるシーンが最後の最後にまた登場したり等々。
荒唐無稽であり得ない設定が幾つかある、という批判もネットで見かけますし、事実そう思わないでもないところも多々あるのですが、それは原作が絵本であるファンタジーだと割り切って、素直にこの映画の世界に身を委ねればそれほどの瑕疵とも思えません。
さて、この素晴らしい物語を演じる俳優陣も素晴らしい。「ガンジー」のベン・キングズレー、サーの称号を持つクリストファー・リー、という二大老優が脇を固めて二人の少年少女をサポートしています。少年役のエイサ・バターフィールドの陰と陽を演じ分ける演技も見事でしたが、個人的には少女役のクロエ・グレース・モレッツの微笑みの可愛さや表情の豊かさにやられてしまいました。
そしてそれ以上に強い印象を残すのが鉄道公安官役の長身俳優サシャ・バロン・コーエンの怪演!そして彼の相棒、ドーベルマン(多分)のマキシミリアンの名演技も挙げておきましょう。
最後にスコセッシ監督といえば語らないといけないのが音楽。彼はローリング・ストーンズの曲を初めとするロックを多用することで有名ですが、今回は郷愁を覚えるシャンソンの調べが映画全体を彩っています。これが憎いほどはまっていて、エンドロールで流れる主題歌も本当に素敵でした。
ということで、どなたにでも安心してお勧めできる傑作だと思います。ちなみに3Dは個人的にはやはり目が疲れます。それが苦手な方には2Dでも十分楽しめると申しておきます。それでも一度良質の3Dを体験してみたいという方には、この映画は一押しでお勧めですけれどもね。
評価: A: 傑作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)
2012/03/11
2012/03/08
TIME
斬新なアイデアが話題のSF映画「TIME」を観てきました。超映画批評の前田有一も絶賛していたので楽しみにしていましたが、う~ん、それほどのもんかな?というのが正直な感想でした。
『原題: In Time 2011年アメリカ映画
配給: 20世紀フォックス映画
監督: アンドリュー・ニコル
キャスト: ジャスティン・ティンバーレイク、アマンダ・セイフライド、キリアン・マーフィ、ビンセント・カーシーザー、オリビア・ワイルド 他
「ガタカ」のアンドリュー・ニコル監督が、ジャスティン・ティンバーレイクとアマンダ・セイフライドを主演に迎えて描くSFアクションサスペンス。科学技術の進歩によりすべての人間の成長が25歳で止まり、そこから先は左腕に埋め込まれた体内時計「ボディ・クロック」が示す余命時間だけ生きることができる近未来。貧困層には余命時間が23時間しかない一方で、富裕層は永遠にも近い時間を手にする格差社会が生まれていた。ある日、ひとりの男から100年の時間を譲り受けた貧困層の青年ウィルは、その時間を使って富裕層が暮らす地域に潜入。大富豪の娘シルビアと出会い、時間監視局員(タイムキーパー)の追跡を受けながらも、時間に支配された世界の謎に迫っていく。(映画.com等より)』
遺伝子操作により人間が25歳を境にして成長・老化が止まる社会、貧困層社会は、せっせと日銭を稼がないとあっという間に余命が尽きて突然死したり、ちょっとでも多くの余命を持っていると強盗に襲われたりし、おまけに「時間」のローン金利や物価はどんどん上がっていく悲惨な毎日です。一方富裕層社会は永遠にも等しい[「時間」=生命を手に入れており、カジノでは何千年という「時間」を賭けでやり取りし、高級ホテルのスイートルームは一泊何ヶ月(正確な数字は忘れてしまいました)という時間を必要とします。また、主人公の出会う富豪の家族は何人ものボディガードが常に付き従い、「時間」を守っています。
このあたりの描写が今のアメリカの明らかに行き過ぎていると思える資本主義社会を皮肉っているのは良く分かるし、「金」を「時間」に置き換えた社会の描写は確かにとても面白い。しかし、そのからくりに慣れてしまえば、中盤以降は貧民のジャスティン・ティンバーレイクと大富豪の娘のアマンダ・セイフライドの逃避行のアクション映画に過ぎなくなってしまいます。まあ活劇映画はハリウッドの十八番で、それを今人気のある二人にやらせればアメリカの観客は大喝采、という目論見はある程度成功しているのでしょうが、純粋にアクション映画としてみれば、ややしょぼい感じは否めません。
さて、貧民だったジャスティンは超格差社会に怒りを覚え、富裕層のアマンダはただ時間を消費するだけの息の詰まるような怠惰で窮屈な社会に嫌気がさし、逃避を続けながら富裕層の莫大な「時間」=「資本」を強奪して、貧民に分け与えようとします。
終盤100万年というとてつもない「時間」を盗み出した二人の行動は体制の崩壊という新たなカオスにもたらすかに見えます。しかし考えてみれば100万人に分け与えれば一人当たりたった1年ですし、究極まで富を再分配するためにまた新たに時間を強奪することをたった二人だけでいつまでも続けられるとはとても思えません。
にもかかわらずラストシーンでボニーとクライド張りにかっこよく車から降り立ち、巨大銀行を襲いに行く彼らの姿で幕を閉じられてしまうと、えっ、それでその先どうなるの?という中途半端感が拭えませんでした。
というわけで羊頭狗肉感の拭えないSF映画でしたが、アイデアはいいしその世界の描写はとても面白かったと思います。ジャスティンとアマンダの二人のファンにも二人が存分に活躍してくれるのでお勧めです。
評価: D: イマイチ
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)








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