2012/04/16

アーティスト

Theartist
  今年の第84回アカデミー賞は奇しくもサイレント映画へのオマージュ2作品が5部門ずつを受賞する、という結果になりました。片やデジタル技術や3Dなど、最先端の映像技術の粋を尽くした「ヒューゴの不思議な発明」、そしてもう一作が対照的にあえてこの時代にモノクロ・サイレントの技法を選んだ「アーティスト」でした。そして受賞部門数は同じでも、「作品賞」「監督賞」「主演男優賞」といった主部門を制した「アーティスト」が事実上圧勝した、という見方が報道の大勢を占めていました。
 日本では「ヒューゴ」の方が先に公開され、先日レビューしましたようにとても良い映画でしたので、一方のこの「アーティスト」が一体どのくらい素晴らしい出来なのだろうと期待しておりました。先日公開され、ようやく観ることができましたが、ヒューゴと優劣を競うほどの大作ではなく、アカデミー賞選考委員の好みにピタッとはまったんだろうな、というのが正直な感想でした。もちろん出来が悪いというのではありません。アカデミー賞等の余計な先入観や過度の期待なしに見れば、素直に楽しめ、とても心温まる佳品であると思います。

『2011年フランス映画 配給:ギャガ

監督、脚本: ミシェル・アザナビシウス

キャスト: ジャン・デュジャルダン、ベレニス・ベジョ、ジョン・グッドマン、ジェームズ・クロムウェル、ペネロープ・アン・ミラー、マルコム・マクダウェル他

舞台は1927年のハリウッド。スター俳優のジョージ・バレンタインは若い端役女優のペピー・ミラーを見初めてスターへと導くが、折しも映画産業は無声からトーキーのへの移行期。無声映画に固執し続けるジョージが落ちぶれていく一方で、ペピーはスターダムを駆け上がっていく。(映画.comより)』

 誤解の無いようにまず申し上げておきたいのは、単純なモノクロ・サイレントだから大作でないといっているわけではありません。特に映像は陰翳の深さ・滑らかさが素晴らしく、単純に当時のサイレントを模して白黒フィルムで撮ったものではないことがすぐに分かります。実はこの映画、まずカラーフィルムで撮影し、それをグレイスケールにコンバージョンしているのです。だから黒と白の間の階調が豊かなのです。ということはメークから衣装、小道具、大道具に至るまで全てカラー用に、慎重に製作・選択されているはずですし、ロケ地にもこだわったはずです。

 例えばジャン・デュジャルダン扮する主人公の落ちぶれていくサイレント時代の名優ジョージ・ヴァレンティンは、明らかにダグラス・フェアバンクスをモデルにしていると思われますが、実際ベレニス・ベジョ扮する、大スターに登りつめていくぺピー・ミラーの豪邸のベッドルームは、メアリー・ピックフォードの実家で撮影されたそうです。メアリー・ピックフォードと言えばケイティ・メルアの同名曲(Pictures所収)を思い出してしまいますが、その中にも歌われているように、彼女はダグラスと結婚しています。

 また、この映画は完全にサイレントというわけではありません。もちろんサイレント時代にも劇場で生バンドが演奏しBGMをつけていたりする事はあったわけで、この映画でも冒頭、映画中映画で音楽が流れ、その後劇場でオーケストラが演奏している、というオチを実際に描いていて当時を偲ぶよすがとしています。ただ、それだけではなく、この映画には効果音はふんだんに用いられていますし、途中トーキーのスターとなるぺピーの歌も挿入されています。そしてラストシーンでは効果的にトーキーに転換して終わります。

 というわけで、「ヒューゴ」とは違ったアプローチでこの映画は素晴らしい映像・音声を観るものに提供しています。

 その上であえて大作ではない、と申し上げたのは、やはり基本的にサイレントを模している以上、時折差し挟まれる字幕だけでわかるシンプルな脚本、そして当時の技術で可能な範囲内での演出、という制約からくるものです。
 しかし「監督賞」を取ったくらいですから、ミシェル・アザナビシウス監督はその制約内で相当凝ったことをしています。まず彼は350本近いサイレント映画を観た上で構想を練り、随所に有名な映画の名シーンを髣髴とさせるシーンを取り入れています。それが過剰で鼻につくという批判もありますが、全てを指摘できる人はそうそういないはずで、私はそれほど気になりませんでした。
 また、映画中サイレント映画の演出にはわざとらしい動きを多く見せる一方で、実際のストーリーは無声映画でありながらごく普通の大げさ感の無い演出をしてその対比をうまく見せています。おまけにトーキーの花形女優となったぺピー・ミラーにサイレントの大げさ感を新聞社の取材で批判させ、それがジョージの怒りをかうというストーリー展開まで用意しています。

 ここまで凝ったことをしてシンプルな脚本と演出でシンプルなサイレント映画に見せかける、というのは確かに大変な熱意と努力ですが、逆にそれを悟られてはいけないという矛盾も内包しています。
 ですから、落ちぶれていく名優と彼を慕いながらスターの階段を駆け上がっていく女優の純愛物語といういささか陳腐なストーリーを、台詞無しで100分以上見せられれば、途中退屈でだれてしまう人がいてもおかしくありません。実際私が見た劇場ではあちこちで居眠りをする人のいびきが聞こえてきました(苦笑。

 まあそれはさておいて、そんな退屈からこの映画を救っているのは、やはりダグラス・フェアバンクスをはじめとする、時代に取り残されていく俳優たちへの限りない愛情に満ちた脚本と、パルムドール賞まで受賞した犬のアギーを含めた出演俳優たちの熱演でしょう。特に最後のジャン・デュジャルダンベレニス・ベジョによるタップダンスは圧巻でした。このシーンのために二人は半年も特訓を重ねたそうです。

 個人的には、

・まだエキストラだったぺピーがジョージの楽屋に入り込み、彼のスーツに手を通して演じるパントマイム、
・それをジョージが見つけて、「スターになるには他の人には無い何か特別なものが必要だよ」と、マリリン・モンローの実話を髣髴とさせる、あるメイクを施してあげるシーン、
・そして落ちぶれ果てたジョージが拳銃自殺を企てて、「BANG!」という字幕と効果音が入った直後のいかにもサイレントらしい演出シーン

などがとても印象に残りました。

 そして先程も少し述べましたが、ラストシーンが素晴らしい。ぺピーの努力によりジョージが映画に復活することとなり、二人で圧巻のタップ・ダンスを踊り終えた後、監督の「Perfect!」という声とともに映画がトーキーに 転換する見事な演出、そしてジョージが唯一しゃべる台詞が、観るものに心地よい感動を与え、映画は幕を閉じます。

 以上映画好きにはたまらないシーンを満載したノスタルジー溢れる映画ですが、実は現代の技術をもってして初めて可能となった映画だと思います。そういう意味で、今の時代にこういう映画がアカデミー賞を獲得するということは当然あってしかるべきであると思います。が、それをカムフラージュしてシンプルなモノクロ・サイレントに見せかけている分、この長尺だとやや退屈という瑕疵がないとは言えません。
 奥歯に物の挟まったような締めになってしまいましたが、まあ、特に古い映画が好きでもないのに「アカデミー賞5部門受賞!」という派手な惹句に惑わされて観にいくと後悔するかもしれませんのでご注意を、とだけ申し上げておきます。

評価: B: 秀作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)

| | コメント (0)

2012/03/12

ヒューゴの不思議な発明(2D/3D)

Hugo_n_2
(オフィシャルHPのフリーロードダウン映像)
 以前ご紹介した「ディパーテッド」で念願のオスカー(アカデミー監督賞)を手にしたマーティン・スコセッシ監督が、ガラッと作風を変え、しかも自身初の3D映画として、フランスはパリを舞台とした素敵なファンタジー映画を作り上げました。それが現在公開中の最新作ヒューゴの不思議な発明」です。本年私が観た映画の中でも出色の出来栄えで、老若男女を問わずお勧めしたい作品です。
 ちなみに私の行きつけのシネコンでは「3D吹き替え版」と「2D字幕版」しかチョイスできず、仕方なくまず2D字幕版を観たのですが、その映像の美しさにどうしても3Dが見たくなり、家内を誘って3D吹き替え版も観てしまいました。その家内も「素晴らしい!」と絶賛しておりました。
 

『 Hugo
2011年アメリカ映画配給、:パラマウント
上映方式: 2D/3D

監督:    マーティン・スコセッシ
原作:    ブライアン・セルズニック
脚本:    ジョン・ローガン

キャスト: エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツ、サシャ・バロン・コーエン、ベン・キングズレー、ジュード・ロウ、レイ・ウィンストン、クリストファー・リー他

世界各国でベストセラーとなったブライアン・セルズニックの冒険ファンタジー小説「ユゴーの不思議な発明」を、マーティン・スコセッシ監督が3Dで映画化。駅の時計台に隠れ住む孤児の少年ヒューゴの冒険を、「映画の父」として知られるジョルジュ・メリエスの映画創世記の時代とともに描き出す。1930年代のパリ。父親の残した壊れた機械人形とともに駅の時計塔に暮らす少年ヒューゴは、ある日、機械人形の修理に必要なハート型の鍵を持つ少女イザベルと出会い、人形に秘められた壮大な秘密をめぐって冒険に繰り出す。主人公ヒューゴを演じるのは「縞模様のパジャマの少年」のエイサ・バターフィールド。イザベル役に「キック・アス」「モールス」のクロエ・モレッツ。2012年・第84回アカデミー賞では作品賞含む11部門で同年最多ノミネート。撮影賞、美術賞など計5部門で受賞を果たした。(映画.comより)』

 この映画は第84回アカデミー賞において、「アーティスト」と5部門ずつ分け合ったことでも話題になりました。奇しくも双方とも映画創成期のサイレント映画へのオマージュとなっています。「アーティスト」の方はストレートに白黒サイレントで撮ったのに対し、マーティン・スコセッシは最先端の3D画像でこの作品を作り上げました。
 その美しさは映画冒頭から堪能することができます。映画製作・配給会社のロゴが消えぬうちから時計の音が聞こえ始め、時計塔の中のたくさんの歯車が回る映像が登場、それがエッフェル塔が遠くに見えるパリの俯瞰夜景映像に変わり、次いで雪の降る日中の映像に変化、そしてカメラは吸い込まれるようにリヨン駅に近づき、見えてきたホームをすべるように走ります。もちろんCGが用いられているのでしょうが、一体どういう風に撮影したのか、本当に見事な3D映像です。

 さて、このような高度な技術が微塵もなかった20世紀初頭のパリにおいて、たとえば「月世界旅行」(月の顔の右目に砲弾のようなロケットが突き刺さり、月が涙を流す映像は誰もが一度はご覧になったことがあると思います)のような「特撮」映像をどのように当時の人々が工夫して撮っていたのか?
 この映画の後半においてスコセッシ監督は、この映画の影の(というか、本当の)主人公である元・手品師の映画製作者ジョルジュ・メリエスの独白を映像化することにより、見事に再現してみせます。(ちなみにメリエスは実在の人物で「月世界旅行」の製作もしています。)
 総ガラス張りの巨大なスタジオのセット、その中で繰り広げられる撮影風景、メリエスのアイデアと天才的編集の場面、総てが素晴らしく、この映画がアカデミー撮影賞美術賞、視覚効果賞を取ったのも当然と頷けました。
 この映画の3D映像は本当に良く考え抜かれており、こけおどし的なところは少しもない良質なものでしたが、最後の最後に「月世界旅行」の月を3D化した映像にはスコセッシ監督の万感の思いが込められているように感じられ、思わずほろりとしてしまいました。

 さて、映像のことばかり先走ってしまい、肝心のストーリーが後回しになってしまいました。以下幾つかネタバレもありますのでご注意ください。
 この映画には幾つかのテーマがあります。それは父母をなくした少年の魂の成長を描くこと、映画作りに挫折し「壊れて」しまった老人を「再生」すること、生きていることにまだ意味を見出せないでいる人のために「この世界が一つの機械なら余計な部品は一つもないはずだ」と教えてあげること、そして第一次世界大戦という戦争の残した爪あとを描くことにより暗に反戦を訴えること。
 これらを有機的につなぐために登場するのが「不思議な発明」たる、自動筆記機械人形です。この機械人形は実は主人公ヒューゴの発明ではなく、先程述べたジョルジュ・メリエスが手品師時代に作ったもので、挫折しすべてを売り払った際に、これだけは捨てられない、と博物館に寄贈したものでした。それは飾られることもなく倉庫に眠っていたのでメリエスは火事で失われたと思っていました。ところがその人形は博物館の修理係であったヒューゴの父が見つけ出し、自宅で修理していたのです。その修理の半ばで父は火事で死んでしまい、ヒューゴがリヨン駅の時計係だった叔父に連れられてそこへ移住する際、唯一持ち出した荷物なのでした。
 この機械を修理すれば死んだ父の残したメッセージが分かるはず、と思い込んでいるヒューゴはこの機械の修理を続けます。そのために駅構内のおもちゃ屋から度々ゼンマイなどの部品を盗みますが、その店の老主人こそ誰あろう。。。

 ということで話は心地よいテンポで進み、老主人夫婦の家で暮らす父母を失った少女イザベルの協力も得て、中盤でついに自動人形は動き出し、ある絵を描きます。ヒントはもうここまで書いた中にあるのですが、ここでは書かないでおきましょう。とにもかくにもそれは残念ながらヒューゴの期待した父からのメッセージではなく、驚くべき人のサインが入っていたのです。ここからまたヒューゴとイザベルの冒険が続いていくのですが、これは観てのお楽しみ。

 そしてこの物語に彩を添えるのが、リヨン駅の風景と登場人物たち。左足を戦争で失い、粗末な義足で警察犬とともに働く鉄道公安官、彼がそっと慕う花屋の娘、温かく見守るカフェの老マダム、そのマダムを慕いながらも彼女の愛犬に嫌われる太っちょのおじさん等々。先程「誰にでも生きている限り必ず役目がある」ということが一つのテーマであると申し上げましたが、それを実践するような見事なバイプレーヤー振りを皆が発揮するように原作を改変した脚本も見事といえましょう。例えば鉄道公安官は原作ではただの悪役なのだそうですが、この映画ではその義足で分かるように、とても大事なテーマを持たせた上で、最後の最後にヒューゴを救います。

 脚本といえば幾つかの伏線も見事です。例えばヒューゴとイザベルが忍び込んだ映画館のサイレント映画でキートンが演じるドタバタの場面をあとでヒューゴが演じることになったり、ヒューゴが夢の中で観た汽車に轢かれるシーンが最後の最後にまた登場したり等々。
 荒唐無稽であり得ない設定が幾つかある、という批判もネットで見かけますし、事実そう思わないでもないところも多々あるのですが、それは原作が絵本であるファンタジーだと割り切って、素直にこの映画の世界に身を委ねればそれほどの瑕疵とも思えません。

 さて、この素晴らしい物語を演じる俳優陣も素晴らしい。「ガンジー」のベン・キングズレー、サーの称号を持つクリストファー・リー、という二大老優が脇を固めて二人の少年少女をサポートしています。少年役のエイサ・バターフィールドの陰と陽を演じ分ける演技も見事でしたが、個人的には少女役のクロエ・グレース・モレッツの微笑みの可愛さや表情の豊かさにやられてしまいました。
 そしてそれ以上に強い印象を残すのが鉄道公安官役の長身俳優サシャ・バロン・コーエンの怪演!そして彼の相棒、ドーベルマン(多分)のマキシミリアンの名演技も挙げておきましょう。

 最後にスコセッシ監督といえば語らないといけないのが音楽。彼はローリング・ストーンズの曲を初めとするロックを多用することで有名ですが、今回は郷愁を覚えるシャンソンの調べが映画全体を彩っています。これが憎いほどはまっていて、エンドロールで流れる主題歌も本当に素敵でした。

 ということで、どなたにでも安心してお勧めできる傑作だと思います。ちなみに3Dは個人的にはやはり目が疲れます。それが苦手な方には2Dでも十分楽しめると申しておきます。それでも一度良質の3Dを体験してみたいという方には、この映画は一押しでお勧めですけれどもね。

評価: A: 傑作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)

| | コメント (2)

2012/03/08

TIME

Time
 斬新なアイデアが話題のSF映画「TIME」を観てきました。超映画批評の前田有一も絶賛していたので楽しみにしていましたが、う~ん、それほどのもんかな?というのが正直な感想でした。

『原題: In Time   2011年アメリカ映画
配給: 20世紀フォックス映画

監督: アンドリュー・ニコル

キャスト: ジャスティン・ティンバーレイク、アマンダ・セイフライド、キリアン・マーフィ、ビンセント・カーシーザー、オリビア・ワイルド 他

「ガタカ」のアンドリュー・ニコル監督が、ジャスティン・ティンバーレイクとアマンダ・セイフライドを主演に迎えて描くSFアクションサスペンス。科学技術の進歩によりすべての人間の成長が25歳で止まり、そこから先は左腕に埋め込まれた体内時計「ボディ・クロック」が示す余命時間だけ生きることができる近未来。貧困層には余命時間が23時間しかない一方で、富裕層は永遠にも近い時間を手にする格差社会が生まれていた。ある日、ひとりの男から100年の時間を譲り受けた貧困層の青年ウィルは、その時間を使って富裕層が暮らす地域に潜入。大富豪の娘シルビアと出会い、時間監視局員(タイムキーパー)の追跡を受けながらも、時間に支配された世界の謎に迫っていく。(映画.com等より)』

 遺伝子操作により人間が25歳を境にして成長・老化が止まる社会、貧困層社会は、せっせと日銭を稼がないとあっという間に余命が尽きて突然死したり、ちょっとでも多くの余命を持っていると強盗に襲われたりし、おまけに「時間」のローン金利や物価はどんどん上がっていく悲惨な毎日です。一方富裕層社会は永遠にも等しい[「時間」=生命を手に入れており、カジノでは何千年という「時間」を賭けでやり取りし、高級ホテルのスイートルームは一泊何ヶ月(正確な数字は忘れてしまいました)という時間を必要とします。また、主人公の出会う富豪の家族は何人ものボディガードが常に付き従い、「時間」を守っています。

 このあたりの描写が今のアメリカの明らかに行き過ぎていると思える資本主義社会を皮肉っているのは良く分かるし、「金」を「時間」に置き換えた社会の描写は確かにとても面白い。しかし、そのからくりに慣れてしまえば、中盤以降は貧民のジャスティン・ティンバーレイクと大富豪の娘のアマンダ・セイフライドの逃避行のアクション映画に過ぎなくなってしまいます。まあ活劇映画はハリウッドの十八番で、それを今人気のある二人にやらせればアメリカの観客は大喝采、という目論見はある程度成功しているのでしょうが、純粋にアクション映画としてみれば、ややしょぼい感じは否めません。

 さて、貧民だったジャスティンは超格差社会に怒りを覚え、富裕層のアマンダはただ時間を消費するだけの息の詰まるような怠惰で窮屈な社会に嫌気がさし、逃避を続けながら富裕層の莫大な「時間」=「資本」を強奪して、貧民に分け与えようとします。

 終盤100万年というとてつもない「時間」を盗み出した二人の行動は体制の崩壊という新たなカオスにもたらすかに見えます。しかし考えてみれば100万人に分け与えれば一人当たりたった1年ですし、究極まで富を再分配するためにまた新たに時間を強奪することをたった二人だけでいつまでも続けられるとはとても思えません。

 にもかかわらずラストシーンでボニーとクライド張りにかっこよく車から降り立ち、巨大銀行を襲いに行く彼らの姿で幕を閉じられてしまうと、えっ、それでその先どうなるの?という中途半端感が拭えませんでした。

 というわけで羊頭狗肉感の拭えないSF映画でしたが、アイデアはいいしその世界の描写はとても面白かったと思います。ジャスティンとアマンダの二人のファンにも二人が存分に活躍してくれるのでお勧めです。

評価: D: イマイチ
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)

| | コメント (0)

2012/02/15

ゴーストライター

ゴーストライター [DVD]
はむちぃ: みなさまこん**は、今回の映画レビューは洋画「ゴーストライター」でございます。
ゆうけい: ゴーストライター、といっても柴田淳のアルバムではございません。
は: 当然でございます(ーー;)。2011年度キネマ旬報洋画部門で堂々の第一位を獲得した傑作との評判も高い作品でございます。
ゆ: たかけんさんも絶賛していましたねえ。
は: なにしろ監督があのロマン・ポランスキー様ですから、いやがうえにも期待は高まりますね。
ゆ: 1933年生まれですから、ポランスキーももう79歳ですか。イーストウッド監督の例もありますから歳で判断しちゃいけないんですが、果たしてどれだけの作品を撮ってくれるのか?映画館でトレーラーは見て面白そうだな、とは思っていたんですが公開時には見逃してしまいました。
は: というわけでDVD鑑賞になってしまいましたが、作品紹介参りましょう。

『 The Ghost Writer  2010年 フランス・ドイツ・イギリス合作映画 日本配給:日活

スタッフ:
監督・脚本・製作:ロマン・ポランスキー
原作・脚本:ロバート・ハリス

キャスト:
ユアン・マクレガー、ピアース・ブロスナン、キム・キャトラル、オリヴィア・ウィリアムズ、トム・ウィルキンソン、イーライ・ウォラック

元英国首相アダム・ラングの自叙伝執筆を依頼されたゴーストライター。ラングが滞在する真冬のアメリカ東海岸の孤島に1ヵ月閉じ込められることと、締め切りまで時間がないことを除けば、おいしい仕事のはずだった。しかし、前任者のゴーストライターは事故で死んだという-。とにかく、気乗りがしなかった・・・。 仕事を始めた直後、ラングに、イスラム過激派のテロ容疑者を“不法”に捕らえ、拷問にかけたという戦犯容疑がかかる。しかし、この政治スキャンダルもまだ序章に過ぎなかった。 はかどらない原稿と格闘していく中で、ゴーストライターはラングの発言と前任者の遺した資料との間に矛盾を見出し、ラング自身の過去に隠されたもっと大きな秘密に気づき始める。やがて彼は、ラングの妻ルースと専属秘書アメリア・ブライとともに、国際政治を揺るがす恐ろしい影に近づいてゆく・・・。(AMAZON解説より)』

は: こ、これは凄い。。。
ゆ: いやいや、恐れ入りました、ポランスキー監督、ヒッチコック映画を髣髴とさせる心理サスペンス・ドラマを作り上げましたね。

は: テンポはゆっくり目で派手なアクションシーンも殆どないんですが、
ゆ: 一部でも内容をしゃべるとネタバレになってしまうくらい緊密な構成で、観るものをぐいぐい引っ張っていきました。
は: 冒頭次々と降車していくフェリーの中に一台のBMWが取り残されているシーンから不穏な空気が流れ、
ゆ: 最終盤に至り、ついに「真の」謎を主人公が解明した直後、路上を撮るカメラが一瞬揺れ、あることを暗示する見事なラストシーンまで、原作者が練りに練ったプロットをポランスキーが寒色系の色調で描きあげています。
は: 寒色系といえば、孤島の寒々とした風景が印象的でございました。
ゆ: 見事なカメラワークでしたね。アメリカの島も欧州のスタッフが撮るとこういう寂寥とした風景になるのか、と変な感慨を持ってしまいました。

は: あえてプロットの瑕疵を探しますと、
ゆ: グーグルを調べれば何でも分かってしまうのか、とか、前任のゴーストライターの車のナビをあの組織がそのまま放置しておくか、とか、幾つか突っ込みどころはあるんですが、ストーリーの流れが見事ですから、まあそれほど気にならないですね。
は: イラク戦争当時の首相であったトニー・ブレア氏をモデルにしていると言われていますが、
ゆ: そういう意味ではきわめて政治的な映画でもあるのですが、その辺を突っ込んでしゃべるとネタバレになるのでやめておきましょう。

は: 主演のユアン・マクレガー様はスターウォーズシリーズのジェダイの騎士で有名でございますが、
ゆ: 今回はこれがユアンか?というくらい風采の上がらないゴーストライターの役をうまく演じていましたね。首相役のピアース・ブロスナンが矍鑠としていてどうしてもジェームス・ボンドに見えてしまうのとは対照的でした。
は: その他首相の妻、秘書件愛人という二人の主演級女優から、いかにも腹に一物あるような物語の鍵を握る人物二人、何かおどおどしている家政婦や、島の老人に至るまでキャスティングがぴったりとはまっていましたね。

は: ポランスキー監督はこの作品が未完成のうちに米国司法当局の依頼を受けたスイス当局により拘留され、拘留中にポストプロダクションの指示を出して完成にこぎつけたそうでございます。
ゆ: ポランスキーにはスキャンダルがつきものとはいえ、まあ凄いバイタリティの持ち主ですねえ。
は: それだけにアメリカ憎しの思いが映画にこめられているような気もいたします。
ゆ: これこれはむちぃ君、ネタバレにつながるようなことはこの映画に限っては慎みましょうで。
は: 申し訳ありません、そうでございました。というわけで見応え十分なサスベンスドラマとなっております。
ゆ: 英米の観客には笑えるネタも随所に仕込まれているのですが、そのあたりは残念ながら十分には理解できませんでした。観終ってからネットであちこちの解説を読むとなるほどな、と分かります。それも楽しみの一つとしてご覧くださいませ。

評価  A: 傑作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)

| | コメント (0)

2012/01/19

100000年後の安全

100,000年後の安全 [DVD]
 東日本大震災により起こった福島の原発事故により、思わぬ脚光を浴びたヨーロッパのドキュメンタリー映画があります。それは無害になるまでに10万年と言う途方もない時間がかかる「核廃棄物」の問題を扱った映画「10万年後の安全」です。今回DVDになったのを機会に観てみました。

『2009年、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリア映画
配給・宣伝:アップリンク

監督・脚本:マイケル・マドセン
脚本:イェスパー・バーグマン
撮影:ヘイキ・ファーム
編集:ダニエル・デンシック
出演:T・アイカス、C・R・ブロケンハイム、M・イェンセン、B・ルンドクヴィスト、W・パイレ、E・ロウコラ、S・サヴォリンネ、T・セッパラ、P・ヴィキベリ』

 日本でも高レベル放射性廃棄物の地層処分は論じられていますが、まだ建設に至ってはいません。その地層処分を世界に先駆けて政府が決定し工事が始まっているのがフィンランドのオルキルオトにある最終処分場オンカロです。
 映画はオンカロに関わる企業や役所の関係者、工事現場の作業員、専門の学者等へのインタビューと、オンカロの現場の映像を交互に描いていきます。

 このような構成はドキュメンタリーではありふれた手法にもかかわらず、とてもシュールで非現実的な印象を観るものに与えます。
 この映画ではまず章ごとに暗闇の中で監督がマッチを擦って火をともし、カメラに向かって語りかけるのですが、その相手として想定しているのが未来の人々なのです。すなわち、10万年という途方もなく長い期間の中のどこかの時点の未来でこのオンカロの施設を発見し侵入しようとしている人に話しかけているのです。
 もちろん観ているのは今現在の私たちですが、こういう語りかけをされるとどうしても10万年という途方もなく長い年月を考えざるを得ません。この年月を強く意識させることが非現実感につながっているのだと思います。

 一体この間に人類はどう変化しているのか?
 途中で氷河期が来るといわれているが絶滅しないのか?
 今現在の言語は通用するのか?
 しないとすればどうやって核廃棄物の危険を未来の人類に伝えるのか?
 言語が通用しないのなら未来の人類は放射性廃棄物の入った容器をなんだと思うだろうか?
 考古学者が遺跡を発掘するように、この容器の封印をとかないという確証はあるのか?
 或いは内容が分かったとして、それを何かに利用する可能性はあるのだろうか?

 インタビューでこのような非現実的な質問を突きつけられた人たちは、戸惑いながらもある程度の回答はしますが、最終的には

「それほど先のことはわからないとしか言いようがありません」

という答えざるを得ません。当然と言えば当然なのですが、そのような長い間有害である物質を人類は作り出してしまったことにあらためて慄然とします。

 この非現実感に更に追い討ちをかけるのが、オンカロの映像。一時貯水プールの無機質な美しさや、掘削現場のトンネルの非現実感。未来の人間が見ているとすると確かに何かの遺跡に見えなくもありません。もちろんこれは映画スタッフが撮影や編集、背景に流れる音楽等を用いてその効果を狙っているのですが、どのシーンも良く考え抜かれていると思います。

 とにもかくにもあと百年もすればフィンランドだけで作り出される廃棄物でこのオンカロは満杯になるそうです。では世界レベルではどれほどの地層処分場がいるのか?地震国日本はどうなのか?10万年という時間を突きつけられると考えようにも考えようがなく、茫然としてしまいます。しかし現実には山のような放射性廃棄物があります。

 今回の原発事故が「神話」を崩壊させて安全性の再検討を現実としましたが、それでもなお代替エネルギーだけでは不十分で原子力発電は必要、というのが「今現在」の現実のようです。しかし今の需要だけの問題ではなく、このもう一つの「10万年」の問題をも含めて考えないといけないことをこの映画は教えてくれます。

| | コメント (0)

2012/01/04

ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル

Migp
はむちぃ: 皆様あけましておめでとうございます、ゆうけい家筆頭執事のはむちぃでございます。今年一番最初の映画レビュー、作品は「ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル」でございます。
ゆうけい: お正月一番の映画は、おめでたい気分のまま、お金を払った分存分にドキドキハラハラさせてくれて、最後はスカッと終わってあとに気持ちをひきずらない映画がいいですね。というわけでこれにしました、さすがにお客さんも沢山入っておりましたね~。
は: 撮ればヒット間違い無しのトム・クルーズ様の当たり役でございますからね。
ゆ: さすがに4作目ともなるとマンネリ化するかと思いきや、想像を超えるほどの馬鹿さ加減、もとい、アクション大作になっておりました。
は: 何か余計なことを口走られた気もいたしますが(;一_一)、まずは作品紹介に参りましょう。

『2011年アメリカ映画、配給: パラマウント

監督: ブラッド・バード
製作: トム・クルーズ、J・J・エイブラムス、ブライアン・バーク
原作: ブルース・ゲラー
脚本: ジョシュ・アッペルバウム、アンドレ・ネメック

キャスト: トム・クルーズ、ジェレミー・レナー、サイモン・ペッグ、ポーラ・パットン 他

ロシアのクレムリンで爆破事件が発生し、米国極秘諜報組織IMFのエージェント、イーサン・ハントと、ハントの率いるチームが事件の容疑者にされてしまう。米国政府は「ゴースト・プロトコル」を発令してIMFを抹消。汚名を着せられたハントは、IMFの後ろ盾もえられないままチームの仲間だけを頼りにクレムリン爆破の犯人をつきとめ、さらには事件の黒幕が目論む核弾頭によるテロを防ぐためロシアからドバイ、インドへとわたり、過酷な戦いに身を投じる。前作を監督したJ・J・エイブラムスが製作を担当。ピクサーで「Mr.インクレディブル」「レミーのおいしいレストラン」を手がけてきたブラッド・バード監督が、初の実写映画のメガホンをとった。(映画.comより)』

は: ま、まさに、お金を払った分存分にドキドキハラハラさせてくれて、最後はスカッと終わってあとに気持ちをひきずらない映画そのものでした。さすがハリウッドの実力と資金力でございます。
ゆ: メジャーリーグのエース級ピッチャーの剛速球、ど真ん中ストライク、って感じですかね。160キロは軽く出てますよ、みたいな。

は: トム・クルーズ様は、もう今年で50歳、1996年の一作目から数えて15年経つのですが、今回も完全にイーサン・ハント役を演じきっておられました。
ゆ: もう完全に彼のはまり役になりましたね。一方で他の映画ではそのイメージにひきずられる事なく主役を演じるところも凄いですけど。
は: スタント無しの特撮シーンに挑まれるところもこのお歳にして立派でございますが、TV等で派手に宣伝されているドバイの超高層ホテルでの特撮シーンは確かにこの映画最大の見所でございましたね。
ゆ: 正月の「トリビアの泉」特番の高橋克実ピッタン人形を思い出して思わず笑ってしまいましたけどね(^_^;)。まあ冗談はともかく、そんな派手なシーンを織り込みつつも、格闘、カーチェイスをはじめとする一つ一つのアクションシーンを一切の手抜き無しできっちりと演じきり、つなぎのシーンでもきっちりと小技を挟んでいく、そういう単純でかつ大切な事を忠実に守っているのが、天文学的アリエナイザー(古)の確率で危機を乗り越えていく荒唐無稽なストーリーに迫真性を付与する秘訣なんでしょうね。
は: その結果、かつてないくらいの高いテンションが最初から最後まで保たれておりました。
ゆ: 完成度に関してはシリーズでも最高の出来ではないかと思いますね。監督のブラッド・バードがピクサーでアニメーションを撮ってきた人なので実写はどうなのかな?と少し心配していましたが杞憂でした。しかしまあ、クレムリンをあれだけ派手に破壊してもいいもんでしょうか(^_^;)?

は: トム様以外の俳優は如何でございましたでしょうか?新顔としては以前紹介した傑作「ハートロッカー」のジェレミー・レナーや「プレシャス」のポーラ・パットンといったいい俳優さんが出ておられますが?
ゆ: どうしてもトム・クルーズの引き立て役になってしまうところがMIシリーズの辛いところではありますね。そんな中で前作でも頑張っていたサイモン・ペッグは良い味出しているというか、美味しい役どころをもらってますよね。

は: というわけで「安心してハラハラドキドキできる」超大作でございます。スカッと日頃の憂さを晴らしたい方にはお勧めでございます。
ゆ: 原作に敬意を表して「このテープは自動的に消滅する」ネタをパロっているシーンもお見逃しなく(^^♪

評価: C: 佳作
((A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)

 

| | コメント (0)