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2011/07/31

大鹿村騒動記

Ooshika
 原田芳雄氏の遺作となった大鹿村騒動記」をシネ・リーブルで観てきました。追悼企画なのか、1000円均一というサービスプライスで観られ、客席は8割方埋まっていました。そして、上演中常に笑いが絶えない本当に面白い映画でした。こうして大勢のお客さんで笑いながら見送る事が良い供養となったのではないかと思います。

『2011年 日本映画 東映配給
監督・企画: 阪本順治
脚本: 荒井晴彦、阪本順治
原案: 延江浩
主題歌: 忌野清志郎
キャスト: 原田芳雄、大楠道代、岸部一徳、松たか子、佐藤浩市、三國連太郎 他

 シカ料理専門店を営む風祭善(原田芳雄)の前に、18年前に駆け落ちをして村を離れた妻・貴子(大楠道代)と幼なじみの能村治(岸辺一徳)が現れる。貴子は前頭葉に疾患を抱えて記憶を失っており、善はそんな貴子を治ともども店に住まわせる。村では善も出演する大鹿歌舞伎の公演を目前に控えていたが、貴子は18年前に演じた役のセリフだけは記憶しており、舞台上で善と向き合うときだけ、昔の姿に戻る。(映画.comより)』

 処女作「どついたるねん」で知り合って以来、いつか原田芳雄の主演作をとりたいと願ってきた阪本順治監督に原田芳雄が長野県・大鹿村に伝わる村歌舞伎を題材にした企画を持ち込み、聞きつけた名優達がこぞって参加し、わずか2週間のロケで撮りきったといいます。だから御手軽身内受け映画かというと決してそうではなく、原田芳雄の遺作として見なくても十分に快作であると思います。

 村歌舞伎と、そこにかかわる村民たちの悲喜こもごもを涙あり笑いありで描き、認知症リニア新幹線性同一性障害、地デジ化等々いかにも現代的な問題も絡めており、それがクライマックスの伝統的歌舞伎の熱演と見事なコントラストをなして観客を引き込みます。

「普通に生きている人が否応なく漂わせるオカシミで観客を笑わせたかった」

という監督の意図は十分に達成され、監督曰くの「フェリーニ的喜劇」になっていました。

  さて俳優さんですが、原田芳雄、大楠道代、岸部一徳、松たか子、佐藤浩市、三國連太郎、石橋蓮司、小野武彦、瑛太、冨浦智嗣、等々出てくる皆さん、みんな御見事。特に歌舞伎を演じられた方々は、たった二日間の練習とは思えないほどでした。そのような芸達者な方々の中でもやはり、認知症になって帰ってきた妻を演じる大楠道代さんは本当に上手いです。

 そしてなんと言っても原田芳雄。普通遺作と言えば特別出演のチョイ役かと思ってしまいますがさにあらず、先程も述べたように、阪本監督との約束どおり、バリバリに主演をはり、村歌舞伎でも主役で大立ち回りで唸らせます。実際は歌舞伎で左肩を脱臼してしまっていたそうですが、それを寸分も感じさせない役者魂には感動。これだけのものを残してあの世に旅立った原田芳雄はやはり役者の中の役者でした。彼がこれを言いたいために歌舞伎を演じたと言う台詞でレビューを閉じましょう。

「仇も恨も是まで是まで」

評価: B: 秀作
((A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)

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2011/07/30

山本二三展@神戸市立博物館

Humikiri
踏切 時をかける少女、2006)
 神戸市立博物館で催されている、日本を代表するアニメーション画家・美術監督である山本二三(にぞう)の展覧会を観てきました。山本氏みずからが選択した、アニメーション用の背景画、その前段階のスケッチ、イメージボード(監督の要請をうけて描くアニメーションのための下絵)など約180点を一堂に紹介する展覧会です(神戸市立博物館HPより)。

 山本二三氏の代表作としては「未来少年コナン」(1978)、劇場版「じゃりん子チエ」(1981)、「名探偵ホームズ」(1982)、「天空の城ラピュタ」(1986)、「火垂るの墓」(1988)、「もののけ姫」(1997)、「時をかける少女」(2006)などがあり、いずれも細密な描写、しっかりとした構図の中に詩情溢れる世界を構築されています。

Shishigami
獅子神の森、もののけ姫、1997) 個人的にはスタジオジブリのアニメーション美術の最高峰と思っている「もののけ姫」の獅子神の森、獅子神の島が特に興味深かったです。展示解説によりますと、山本氏は

「頭が痛くなるほど描いた。死んだら棺桶に入れてほしい」

とまでおっしゃっておられます。渾身、とはまさにこういうことを言うのでしょう。

 一方、光の輝きとさまざまな表情を見せる雲の描写が氏の持ち味で、その雲は「二三雲」と呼ばれているそうです。一番有名なのはジブリの作品の中でもとりわけ人気の高い「天空の城ラピュタ」の積乱雲、そして冒頭の細田守監督の傑作「時をかける少女」の背景画でしょう。この二作品の様々な背景画も映画の一シーン一シーンを鮮明に思い起こさせてくれました。

 その他にも神戸周辺を入念に取材した成果である「火垂るの墓」、ポスターカラーではなく水彩画で描きあげたという「じゃりん子チエ」などが印象に残りました。

 最近のジブリのクオリティの低さはこの人がいないからか?と勘ぐってしまいたくなる程というのは半分冗談半分本気ですが、とにもかくにも日本の高度なアニメーション美術をこれからも是非牽引していっていただきたいと思います。

 獅子神の森の限定サイン入りの額装画が十万円で出ていたのに後ろ髪を引かれつつ、博物館を後にしました。9月25日まで催されていますので、お近くの方は是非どうぞ。

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2011/07/28

小松左京氏を悼む

果しなき流れの果に (ハルキ文庫)
 日本SF界の巨星が堕ちました。小松左京氏が7月26日、肺炎のため死去されました。享年80歳、謹んでご冥福をお祈りします。

 私の学生時代は日本SF界の黎明期でご他聞に漏れず私も夢中になって創元や早川を読んでいました。
 星新一筒井康隆とともに小松氏が御三家と呼ばれていましたが、小松氏の特徴を一言で言うと博覧強記、とにかくあらゆる分野で知らない事が無いのではないかと思えるほど該博な知識の持ち主でした。代表作の一つである「日本沈没」は当時の専門家をして「修士論文に匹敵する」と言わしめた、という記憶があります。

 代表作を一つあげろと言うのが無理だと思えるほど傑作を数え切れないほど著されましたが、私は途方も無いスケールで度肝を抜かれた「果てしなき流れの果てに」を推します。

 今回の東日本大震災とその後の原発事故に関して、「これは全て我々の世代の責任ではないのか」と悔やまれていたそうです。その思いを無駄にしないような形で新しい日本を築き上げていく事が何よりの供養になると思います。合掌。

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2011/07/23

コクリコ坂から

Kokuriko
 ジブリの最新作「コクリコ坂から」を観てきました。今回は企画・脚本が宮崎駿、監督が息子の宮崎吾郎となっています。以前「ゲド戦記」で自分は投げ出し、息子に初監督をやらせた挙句、落第の烙印を押しておきながら何を考えているんだろう、と思わないでもない組み合わせですが、さて出来やいかに?

『2011年 日本映画 製作:スタジオジブリ 配給:東宝

スタッフ
監督: 宮崎吾朗
脚本: 宮崎駿 / 丹羽圭子
原作: 高橋千鶴 / 佐山哲郎
プロデューサー: 鈴木敏夫
音楽: 武部聡志
主題歌: 手嶌葵

声優
長澤まさみ 岡田准一 竹下景子 石田ゆり子 風吹ジュン 内藤剛志 風間俊介 大森南朋 香川照之 他

『ゲド戦記』以来、宮崎吾朗が約5年ぶりに演出を手掛けるファンタジックな要素を排したスタジオジブリ作品。16歳の少女と17歳の少年の愛と友情のドラマと、由緒ある建物をめぐる紛争を軸に、真っすぐに生きる高校生たちの青春をさわやかに描いていく。主人公となる少年少女の声を担当するのは、長澤まさみと岡田准一。企画・脚本は宮崎駿。さまざまな価値観が交錯する戦後の高度成長期を背景に、現代を生きることの意味を見つめていくストーリーが感動を呼ぶ。(シネマトゥデイより)』

 東京オリンピックの開催を目前に控える経済成長期の横浜を舞台として、ある高校での、明治時代に建てられた由緒ある建物の取り壊し反対運動を通して、父を朝鮮戦争で無くした海と、出生に秘密のある俊の、ほのかな交情を描くさわやかな作品でした。

 ですから良く言えばオーソドックスな佳品と言えるのですが、悪く言えばこじんまりとした凡作とも言えます。今回は家内と娘と私で観たのですが、3人が3人とも

「いまいちやな~」

という感想でした。私はスケールの小ささとジブリ特有のキャラクタのマンネリ化が気になりました。

 あとでDVDやTV放映で儲ける事まで考えているとしても、商業映画である限り興行収入は生命線です。特に夏休みはかきいれ時で各社が大作を投入してくる時期です。例えばハリポタポケモン(これのやり方もアコギだなあと思いますが)と対等に勝負しなければいけない時期に、一時は常勝だったスタジオジブリがこの作品ではなあ、という気はしますし、実際後塵を拝しているようです。

 ジブリファンでなければこの作品に共感できるのは、この映画の時期に青春を過ごした団塊の世代であり、夏休み商戦のターゲットである子どもではありません。昨日も金曜の夕方でしたが、3~4割の入りという寂しいものでした。当然ながら子どもは殆どいませんでした。

 実際団塊の世代である宮崎駿はアリエッティとこの作品を映画化するのが長年の夢だったそうです。ですから彼も企画・脚本に関わっているわけで、この程度の規模の作品になるのはあえて承知の上だったと思います。となると興行収入もそれほどは望めないだろうという計算は鈴木敏夫とともにできていたはず。ある程度負け戦さでかまわないとわかっている映画なら自分が全てを背負えばいいはずですが、監督に息子を再起用するのは一体?と首をひねりますね。

 家内は俊をめぐる出生の秘密の描写に不満があったようです。確かに原作を知らない者には(殆どの人がそうだと思いますが)細かいところでやや不親切な点がありました。例えば海が掲げる旗信号の意味をテロップか何かでいれて欲しかったと思いますし、「カルチェラタン」が何なのかも最初からもう少し説明して欲しかったと思います。そう言えば海の愛称が「メル」になっています。これはフランス語のラ・メール(海)に由来するものと思いますが、その説明も無かったですね。

 また海の父が戦死した朝鮮戦争におけるLST(Landing Ship Tank:戦車揚陸艦)の海上輸送とはなんだったのか、普通の人はまず知らないでしょう。宮崎駿がそのことを知ってほしいと願うのであればもう少し詳しい説明が映画中で語られるべきでしょう。

 娘は海が長澤まさみにしか思えなかったと言っておりました。これも私がずっと指摘してきたことですが、ジブリが主人公の声に人気俳優を使うことの弊害であると思います。うまければ文句も出ませんが、長澤まさみはちょっと舌足らずで独特の声質を持っていてそれが声優としては、確かにミスキャストであったように思います。岡田准一は前回の「ゲド戦記」のアレンに比すれば格段に良かったと思いますが。

 まあいろいろ書いてきましたが、個人的には悪くない作品であるとは思います。手嶌葵の歌も聴けますしね。

評価: D: イマイチ
((A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)

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2011/07/19

原田芳雄氏を悼む

歩いても歩いても [DVD]
 俳優の原田芳雄さんが、7月19日午前9時35分、肺炎のため東京都内の病院で死去されました。謹んでご冥福をお祈りします。実は昨日偶然に「歩いても歩いても」を家内と観ていたので本当に驚きました。最近の十八番だった頑固な祖父役で、ラストでの阿部寛の「父はその3年後に亡くなった」というナレーションが何か因縁めいたものを感じさせます。

 もちろん彼の作品はたくさん見続けてきました。「赤い鳥逃げた?」「竜馬暗殺」「祭りの準備」「ツィゴイネルワイゼン」、黒木和雄監督の戦争レクイエム三部作、「オリヲン座からの招待状」「たみおのしあわせ」「ウルトラミラクルラブストーリー」等々、ひたすらかっこよかった70年代から渋い老人役が似合った最近の作品まで、数え上げればきりがないほどの作品の数々が脳裏をよぎります。

 歌手としてもブルースを歌わせれば歌手顔負けでした。以前山崎ハコさんのコンサートで聞いた私生活での優しさも心に残っています。今日の一曲に「横浜ホンキートンクブルース」をアップしたいと思います。

 日本映画界の巨星が一つまた逝ってしまいました。本当に本当に残念です。合掌。

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2011/07/17

ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 2

Harrypotterdeathlyhallows_2
 第一作「ハリー・ポッターと賢者の石」からあしかけ10年、ついにこの「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 2」をもって映画ハリー・ポッター・シリーズが完結しました。拙ブログでもいろいろと注文をつけたり褒めたりけなしたりの連続でしたが、ここに全てのスタッフとキャストに敬意と謝意を表します。ご苦労様でした。

『2011年 アメリカ=イギリス ワーナー配給

監督 デヴィッド・イェーツ 
脚本 スティーヴ・クローヴス 
原作 J・K・ローリング 

キャスト: ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、アラン・リックマン、レイフ・ファインズ、ヘレナ=ボナム・カーター 他

ハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)たちとヴォルデモート卿(レイフ・ファインズ)の間で繰り広げられる最後の戦い。この壮大なクライマックスで魔法界における善と悪の戦いは、本格的な交戦へとエスカレートする。この戦いは今までで最も危険なものであり、もはや誰一人としてその身が安全な者はなかった。しかも、ヴォルデモート卿との最終決戦で最後の犠牲を払うことになるのはハリー。そしてすべての謎が明らかになり、物語はフィナーレを迎える。(Movie Walker他より)』

 さすがに最終作、息もつかせぬ展開で全ての謎を解明しホグワーツでの最終決戦の結末まで観客を引っ張っていきました。これまで何かと批判も多かった監督のデヴィッド・イェーツでしたが、ぶれることなく4作品を寒色調のイギリス的映像で統一した手腕は称賛されるべきでしょう。後半だけでも膨大な内容を含む原作を脚本に書き下ろす作業も大変だったと思いますが、スティーヴ・クローヴスはあくまでも原作に忠実に、映画向けに上手く改変してまとめ上げていたと思います。

 CGも見応えがありました。前半のドラゴンを利用してのグリンゴッツ銀行からの脱出、中盤の「ロード・オブ・ザ・リング」ばりのホグワーツ最終決戦開戦は良くできていましたね。

 敢えて言うと、最終決戦中の個々の登場人物の描写が物足りない(特にヴェラトリックスが弱すぎる)、とか、あるいは10年の歳月を要したハリーとヴォルデモートの最終対決があれで終わりか、とか、19年後のハリー、ロン、ハーマイオニーのメイクが若すぎないか、とか、観る人それぞれに気になる細かい瑕疵はあると思います。個人的には世界中のファンからのプレッシャーでローリング女史ハリー・ポッターを生かしておかざるを得なかった設定自体にラストの若干の迫力不足の原因があると思いますが。

 そしてキャスト。もう8作目になると、演技がどうのこうのではなく、作中人物そのものですから文句のつけようもありません。特に、シリーズ全体を通じて悪役を演じ続けて次第に人気が出、最後の最後で鮮烈な印象を与えたセヴェラス・スネイプ役のアラン・リックマン、最初はダメ学生のチョイ役がどんどん存在感を増して最後にブレイクしたネヴィル・ロングボトム役のマシュー・ルイス、この二人が今回の裏主役でしょう。

 最後にダニエル・ラドクリフとエマ・ワトソン、この二人が今後公私共にこのシリーズを引きずって生きていかなければならないのは並大抵のことではないでしょうけれども、幸多かれと祈っています。

評価: B: 秀作
((A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)

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2011/07/11

音楽の在りて / 萩尾望都

音楽の在りて
 「ポーの一族」や「11人いる!」などの傑作で知られ、長年第一線で活躍しておられる女性漫画家、萩尾望都の小説集が出ました。それも30年前に雑誌奇想天外に掲載されていた小説の初書籍化だそうです。まるで表題の小説「音楽の在りて」のように遺跡を発掘していたら素晴らしい音楽が聴こえてきた、という趣のある素晴らしい作品群でした。 

『萩尾望都が祝福する世界に、私たちは生きている。
三〇年の時を経ていま甦る、ことばの芸術。
圧倒的な感性で紡がれた、著者唯一の小説集。

著者が二〇代のときに執筆、『奇想天外』に掲載されるや否や話題を呼んだSF小説を待望の書籍化。
人生賛歌ともいえる表題作に、豊かなる想像力に満ちあふれた傑作「ヘルマロッド殺し」。
そして、作者にとって永遠のテーマである「神への挑戦」と「自我の芽生え」を描いた中編「美しの神の伝え」など、
その後の名作マンガとも呼応する一二編を収録した、萩尾望都の原点的作品集。
*「ヘルマロッド殺し」と対をなすマンガ「左ききのイザン」も特別収録! (AMAZON解説より)』

 全体は三部構成に分けられており、Iは著者お得意のSF作品、IIではちょっとホラーがかっていたり、ユーモアに溢れていたり、私生活や当時の漫画の状況を取り巻く現実が描かれていたりとヴァラエティに富んだ作品群が収録されています。

 IIIは「美しの神の伝え」という一篇の中編小説となっており、「創生主=神」と人をテーマに、美しくも儚い、そして一皮剥くと実はむごい世界が、萩尾望都独特の哲学的叙事詩として圧倒的な筆致で描かれている傑作です。

 短編群に関しては、構成的にはブラッドベリの短編や星新一のショートショートの影響を受けている印象がありますが、透明感溢れる詩的で美しい文体は萩尾望都ならではのものでしょう。特に全体を通して感じられる漫画家ならではの絵画的な描写や美しい色彩のセンスは萩尾望都の面目躍如たるものがあります。
 個人的には冒頭の3作品、クローン人間を扱った「ヘルマロッド殺し」、漂流宇宙船で育てられた子どもを救出する「子どもの時間」、ESPが小学校に立てこもった34人の子どもを救出にいく「おもちゃ箱」の傑作3連発でノックアウトされてしまいました。

 20台でこれだけの小説「も」書いていた、萩尾望都、さすがです。

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2011/07/10

ワシントン・ナショナル・ギャラリー展@国立新美術館

Shinkokuritsu1107091
 週末に東京へ学会出張してきたのですが、 余った時間を利用してまだ未訪問だった国立新美術館に行ってきました。壮大で斬新なデザインの建築で、さすが首都東京の威信を感じました。丁度企画展として「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」が開催されており、鑑賞する事にしました。

『12世紀から現代までの世界有数の西洋美術コレクションで知られるこの美術館は、一人の男の壮大な夢と情熱で創設されました。その男の名はアンドリュー・メロン。(中略) 本展では、ワシントン・ナショナル・ギャラリーの所蔵作品の中でも特に質が高いことで知られる印象派とポスト印象派の作品から、日本初公開作品約50点を含む全83点を展示します。出品作品の約半数は、創設者アンドリュー・メロンの遺志を受け継いだ娘のエルサ・メロン・ブルースと、息子ポール・メロンのコレクションに帰属するもので、同美術館の心臓部ともいえるこれらの作品が、これほどの点数でまとまって館を離れるのは極めて稀なことです。
 一人の実業家のロマンと憧れ、そしてその精神を受け継ぐ美の殿堂。アメリカの首都が誇る珠玉のコレクションを、どうぞご堪能ください。』

Photo (ヴェルトゥイユの庭、モネ)
 印象派を中心にバルビゾン派ポスト印象派を含めて84点もの作品が陳列されておりました。印象派はもう見尽くした感があり、事実再見再々見のものもありましたが、内容の濃さは尋常ではなく、良くもまあこれだけの傑作が海を渡ったものだと妙な感心をしてしまいました。

Photo_2 (鉄道、マネ)
 コロー、クールベ、マネ、バジール、ピサロ、ドガ、シスレー、モネ、ベルト・モリゾ、ルノワール、カサット、セザンヌ、ゴーギャン、ゴッホ、ロートレック、スーラ等々、これでもか、というビッグネームのオン・パレードでしたが、個人的にはモネの「日傘の女性」を久しぶりに観る事ができて嬉しかったです。また、ルノアールは「アンリオ夫人」にしても「ココ」にしてもやはり柔らかくて暖かいタッチの人物画が絶妙ですね。その他では、作品数は2点しかありませんでしたが、スーラの点描画が印象に残りました。

 また機会があれば訪れたいと思いますが、東京の地理は難しい(-_-;)。

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2011/07/06

コクリコ坂から歌集 / 手嶌葵

スタジオジブリ・プロデュース「コクリコ坂から歌集」
 手嶌葵の新譜です。題名から分かるように、彼女のデビューのきっかけとなった「ゲド戦記」以来2回目のコラボレートとなるスタジオ・ジブリの次回作品「コクリコ坂から」の主題歌や主題歌の別ヴァージョン、劇中挿入歌などを中心に、オリジナルソングを収録した歌集となっています。

1. さよならの夏~コクリコ坂から~
2. エスケープ
3. 朝ごはんの歌
4. 旗
5. 春の風
6. 懐かしい街
7. 並木道 帰り道
8. 雨
9. 初恋の頃(ALBUMバージョン)
10. 赤い水底
11. 紺色のうねりが
12. 愛をこめて。海
13. さよならの夏~コクリコ坂から~(主題歌別バージョン)

 作詞作曲には音楽担当の武部聡志に加え、宮崎吾郎監督、谷山浩子が全面参加しております。哀愁を帯びた美しい旋律から、谷山浩子独特のほんわかとした雰囲気まで、全体に手嶌葵のゆったりとした美声での歌唱と良くあっていると思います。主題歌「さよならの夏」が既にリリースされているのでご存知の方もおられると思いますが、映画音楽の常で、やはりこれがベストトラックでしょう。ちなみに最後に別バージョンも入っています。

 もちろんこういうアルバムは映画を観て気に入ってから買う、というのが常道だとは思いますが、こと手嶌葵ファンに関してはミズテンで買って損は無いと思います。何となく映画の雰囲気も感じ取れる気がします。てな事言って映画のレビューがどうなるかは分かりませんが(笑。

 ジブリの前作「借り暮らしのアリエッティ」はビックリの高音質で話題になりましたが、この作品もそれほどではありませんがナチュラルで上品な音質だと思います。まあ前作よりジブリっぽさが鼻につくかもしれませんが、それは仕方ないことと割り切って聴いて下さい。

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2011/07/04

60万ヒット御礼と「わたしを離さないで」にまつわるお話

Never Let Me Go (Movie Tie-In Edition) (Vintage International)
( Never Let Me Go by Kazuo Ishiguro, Paperback )
 昨日はネットを見るのが遅くなり、気がつくと拙ブログのヒット数が60万を越えておりました。常連の皆様はじめ、見ていただいた方々に深く御礼申し上げます。
 このブログも今月で満7年になります。随分遠くまで来たなあ、これからまだどれくらい行けるんだろうか、といろいろな思いが心中を交錯します。昔のようなハイペースはとても無理ですが、とりあえず今後もゆったりとではありますが更新していきたいと思っております。よろしければ今後ともよろしくお願いします。

 50万ヒット以降の10万アクセスの中で特に印象が強い、と言うか正直驚いているのは、映画「わたしを離さないで(Never Let Me Go)」記事への異常なアクセス集中です。何しろトップページより多い日が何週間も続くという今まで有り得ないアクセスが続き、現在までに短期間の記事別アクセスでは過去に記憶がない6000ヒットを超えるという閲覧をいただいています。

 おそらくNHKで原作小説の作者カズオ・イシグロのインタビューが放映された影響が強いのであろうと推測していますが、それにしても「仁」や「マルモ」のような視聴率があったわけでなし、彼が、例えば私のブログで度々取り上げるほかの作家、村上春樹ポール・オースターほど日本でポピュラーな作家とも思えません。
 また、映画自体も私自身が遠方まで出かけなければならなかったほど上映館が少ない謂わばミニシアター系のカルト作品に近い扱いでした。

 というわけで、常識的に考えればこれほどのアクセスは有り得ないと考えざるを得ません。その上で敢えてその理由を挙げるとすれば、非常に単純ではありますが、

・映画の出来がよかったこと
・原作小説が優れていること

の二点しかないと思います。私自身も今年上半期で最も印象に残る洋画を挙げろと言われれば、躊躇なくこの映画を選びます。実は感激のあまり、ペイパーバックを購入してしまいました。

 土屋政雄氏の訳で既に2回読んでおりましたので、殆ど辞書なしでスイスイ読めるだろうと予想していたのですが、そう簡単にはいきませんでした。逆に土屋氏の邦訳のイメージとかなり違う世界に迷い込んでしまったのではないかという戸惑いが、読み進めるうちに段々強くなってきました。
 この戸惑いを引きずったままではこれ以上進めないと第一章の途中で観念し、一から読み直すことにしました。それからというもの、原文と土屋氏訳を一文一文突合しながら読み進めるという大学教養時代の授業以来ではないかという地道な作業が始まり、終わるまでに2ヶ月を要しました。

 その結果を簡単に言い切ってしまうと次の二点に集約されます。

・ 土屋政雄氏の訳が唯一無二ではない
・ しかし土屋氏の訳はやはり名訳である

 もちろんカズオ・イシグロの原作が傑作であることは論を待ちません。最後の文章は映画の鮮やかなイメージとも相まって涙をこらえきれませんでした。

 今後このブログがどれくらい続くのか、全く見当はつきませんが、またこのような素晴らしい作品との邂逅があり、それをご紹介できることを願っています。

 

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2011/07/03

アンダルシア 女神の報復

Andulcia
  織田裕二が外交官黒田康作を演じる最新作「アンダルシア 女神の報復」です。前作映画「アマルフィ」は玄人筋にはボロボロの評価、TVドラマは視聴率的に惨敗と苦難の道を歩んでいるシリーズですが、個人的には黒田康作という「踊る大捜査線」の青島君とは正反対の寡黙なキャラに注目して観ておりました。そして織田裕二はぶれる事なく新作でもこの黒田康作を演じております。

『2011年 日本映画
製作:フジテレビジョン他 配給:東宝

監督:西谷 弘 
脚本:池上純哉 

キャスト:織田裕二 黒木メイサ 戸田恵梨香 福山雅治 伊藤英明

映画『アマルフィ』、TVドラマに続いて織田裕二が外交官・黒田康作を演じるシリーズ第3弾。スペイン北部に位置するアンドラ公国で起こった日本人投資家殺害事件。調査のため現地を訪れた黒田が、巨大な国際犯罪の闇に立ち向かう。黒木メイサが物語のカギを握るエリート銀行員を、伊藤英明が黒田と同じ事件を追うインターポール捜査官を演じる。(ぴあ映画生活等より)』

 これだけ大規模な海外ロケを敢行した大スケールのサスペンス・ドラマは、いかに活況の日本映画界でも年に何本も撮れるものではないでしょう。そして金をかけた分、貧相に見えるところが殆ど無い、隙の無い映画作りをしているところにも敬意を表します。
 黒田康作という織田裕二の新キャラクターもほぼ確立されたといってよいでしょう。いろいろと批判もありますが、やはり彼は日本映画界には欠かせない逸材であり、映画館の大画面に映える数少ない日本俳優の一人だと思います。

 まあその上で、敢えてこの映画の欠点をあげるとすれば、妙に間延びして不得要領な脚本でしょうか。

・ ハリウッドのように息つく暇も与えずは襲ってこず、しかも最後は何と効果音だけで画面にも出してもらえず一網打尽にされてしまうちっとも怖くないトホホな闇の組織、
・ 主役三人(織田裕二黒木メイサ伊藤英明)のキャラを皆暗くしてしまったので、福山雅治がいくらおちゃらけても、会話で細かいジョークを入れてもちっとも盛り上がらない展開、
・ 一番重要な「ブツ」のこれは有り得ないだろうと溜息が出るようなぞんざいな扱われ方、
・ 謎の人物の意外な正体を最後に明らかにするのは御約束にしても、その動機のあまりの卑小さ、
・ あいも変わらずの上からの圧力とそれに逆らっても必ずお許しが出るマンネリズム、
・ 主人公が死なないのは分かりきっているのでちっとも心配にならない絶体絶命場面、

ぱっと思いつくだけでこれくらいのところでしょうか。分析的に映画を観る方が真剣に検討されたらまだまだあるかもしれません。

 さて、俳優陣はまずまずの演技をしていたと思います。ただ、黒木メイサという方はとても美人である事は論を待たないのですが、正直に申し上げて、個人的に、あくまで個人的には観ていてつまらない女優さんです。あまりスクリーン映えがしないというか、演技がTVドラマ止まりというか。。。
 伊東英明は「死ぬ死ぬ詐欺」と言われつつ人気の高い「海猿」シリーズとはがらりとイメージを変えて、抑制の効いた演技が良かったと思います。敢えて言うと、タッパがあってスクリーン映えする体型だけに、主役の織田裕二が見劣りしてしまうと言う意味でミスキャストだったかも。。。

 いやあ、あまり褒め殺ししてはいけないのでこの辺で筆を置きましょうか。どこが褒めてんねんと言われそうですが。
 まあとにもかくにも織田裕二は日本映画界において貴重な存在であり、このシリーズもどうせ作るならこれくらいの派手なスケールで作り続けていただきたい。そしてどうせならハリウッドばりの息もつかせぬ、小賢しい理屈は抜きのサスペンス・アクションにしたほうが良いのではないかと思います。

評価: D: イマイチ
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)

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