2009/11/06

THIS IS IT

Thisisit
はむちぃ: ご主人様、健康もすぐれませんのにまた映画鑑賞でございますか?
ゆうけい: こんにちは~ マイコー・ジャクスンですぅ、なんてね!(ものいい吉田サラダ風)。
は: 。。。。。(;一_一)
ゆ: まぁまぁそう怒らんでも(^_^;)、実はこの前映画館でマイコーの「THIS IS IT」のトレイラーを見て驚いたんだよ。
は: マイケル・ジャクソン様がお亡くなりになって幻となったロンドン公演を、リハーサル映像の編集によってスクリーン上で再現する試みの映画でございますね。
ゆ: そう、あの様な亡くなり方をしたものだから廃人寸前だろう思っていたマイコーが往年の切れを失っていないステージ・リハをしているなんてにわかには信じられないでしょ、これは全編観て確かめなくてはと思っていたんだ。
は: おまけに期間限定で劇場用パンフレットも作成しないという潔さでございますからね。
ゆ: イエスアイドゥー(坂田師匠風)。
は: 相変わらず限定モノには弱いんですから(;一_一)。

『THIS IS IT
製作年度: 2009年
製作国: アメリカ   上映時間: 111分
SONY Picures Entertainment

 2009年6月、1か月後に迫ったロンドンでのコンサートを控え、突然この世を去ったマイケル・ジャクソン。照明、美術、ステージ上で流れるビデオ映像にまでこだわり、唯一無二のアーティストとしての才能を復帰ステージに賭けながら、歌やダンスの猛特訓は死の直前まで繰り返されていた。

解説: 2009年6月に急逝したマイケル・ジャクソンによって、死の数日前まで行われていたコンサート・リハーサルを収録したドキュメンタリー。何百時間にも及ぶリハーサルを一本の映画にまとめあげたのは、『ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー』の監督兼振付師で、予定されていたロンドン公演のクリエーティブ・パートナーでもあったケニー・オルテガ。コンサートを創り上げる過程では、偉大なスターであり才能あふれるアーティストでもありながらなおも進化を続けたマイケル・ジャクソンの素顔が垣間見える。
(シネマトゥデイ)』

は: こ、これは、確かにリハーサルだけの映像なんですが凄い出来栄えでございますね(驚。
ゆ: これだけの映像を残しておいてくれたスタッフに先ずは感謝したいですね、本当に貴重な映像だと思います。

は: 前田有一氏が構成と編集が突貫工事と大人の事情で明確なコンセプトを示していないのが残念と述べられておりますが?
ゆ: 確かにその通りなんですが、あれだけたっぷりとリハーサルシーンを詰め込んでくれれば文句は言えませんね。かえって余計な演出をしない分、MJファン、音楽ファンにとっては、好ましいと思いますよ。
は: この公演が本当に実現されていたら史上に残る素晴らしいコンサートになっていたでしょうね。
ゆ: 私が見た中ではマドンナのConfession Tourが最も完成された完璧なステージだったと思いますが、それ以上のものになっていたでしょうね。黒人のリズムセクションとキーボードが叩き出す強烈なビート、ステージに花を添えるブロンドの女性ギタリストやバックシンガー、ジュディス・ヒル、そしてオーディションで選ばれた超一流のバックダンサー陣、その全員がMJを尊敬し、彼の注文に機敏に応えていくさまは圧巻でこの映画のもう一つの見所でもありますね。

は: 用意されていたヴィジュアル・イフェクトも凄かったようですね。
ゆ: 当時ジョン・ランディス監督を起用して完成されたショート・ムーヴィーとしてMTVブームを作った名作「スリラー」の新作3D映像は是非見てみたかったですね。それに「スムース・クリミナル」用に用意されたおそらく禁酒法時代のシカゴを舞台にしたモノクロのアクション・フィルム、そして「アース・ソング」に於ける自然破壊に対するマイケルの怒りがこめられた壮大な映像美、どれをとっても断片的ではあれ、蝶一級品の映像ですから完成されていたら会場を圧倒したでしょうね。
は: 蝶一級ではなくて超一級でございます(-.-)。ちなみにこの意味は是非映画をご覧になってお確かめくださいませ。
ゆ: MJはこのコンサートをきっかけとして

「4年で自然破壊を食い止める」

と豪語していますね、これにはさすがに苦笑せざるを得ませんでしたが、彼の熱意だけは十分に理解できましたし、それだけの影響力をまだ行使できる人間であったという事も実感しました。

は: さて、そのマイケル様のパフォーマンスはいかがでございましたでしょうか?
ゆ: 少なくともステージの一定の面積内においての歌唱力とダンスの切れはさすが「King Of Pop」、超一流品でいささかも衰えていませんでしたね。
は: スタッフも彼は音楽とライブの全てを知り尽くしていると感嘆の声をあげておられました。
ゆ: ただ顔のアップはやはり痛々しかったですし、殆ど脂肪が無いんじゃないかと思う程やせ衰えた体で果たして本番を最後まで演じきる事ができたかどうか。。。

は: 選曲はほとんどベスト集と呼んでも差し支えないセットリストでございましたね。
ゆ: 「スタート・サムシング」に始まって名曲のオン・パレード、そしてジャクソン5の曲まで取り上げるつもりだったようですね。「I'll Be There」を彼が歌った時には思わず熱いものがこみ上げて来ましたよ(ウルウル。
は: その曲中で挟まれたモノローグも感動的でございます。
ゆ: 最後には「マン・イン・ザ・ミラー」をもってきて感動的なカーテン・コールが予定されていたようですね。世界を変えたければ先ず鏡の中の自分から、自然破壊を食い止めるのも他人事だと思わず自分から、と言うメッセージをこめていたんでしょう。

は: と言うわけでございまして、リハーサル映像とはいえマイケル様の幻のコンサートを仮想体験できる貴重な映像でございます。
ゆ: 20世紀後半の時代のアイコンであった「King Of Pop」も近年は醜聞にまみれていましたが、その「Inglorious」を再び「Glorious」に転換できるだけの可能性を秘めたコンサートであっただろうと思えるだけのインパクトがありました。
は: それがかなわなかった事が悲しゅうございます。
ゆ: 冷静に現実を見据えればプロポフォルを使用して眠るなんて過激な事をしていたら、たとえ医師の過失で無くてもああなる事はいずれ時間の問題だったでしょう。
は: それだけのプレッシャーを感じながらも「人類愛」と「自然破壊を食い止める」為に再び彼は立ち上がろうとしていたのだとしたら、これはもうこの上ない美談でございますが?
ゆ: 巨額の借金問題などおそらく現実はそうそう綺麗事ばかりではなかったのでしょう。だからこの映像だけが残って再び伝説となった事が彼にとって、そしてファンにとっても良かった、と今は信じたいですね。

は: ところでCDは買われたんでございますか?
ゆ: いやいや、体調不良をおして映画館の大画面とサラウンド音を体感するために出かけたんですからね、家で聴く気にはならないですよ。皆さんも是非映画館でご覧下さいませ。特に近くにIMAXシアターがある方は必見です!

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2009/09/10

孫文 - Road To Dawn -

Sonbun_516_2
は: 今日のレビューは現在公開中の中国映画「孫文」でございますね。
ゆ: 歴史の勉強をしていて有名な人物なのに一体この人は何をした人なのか、今一つピンと来ない人っていますよね、私にとって孫文がその一人なんですよ。
は: 本ブログで扱ったレビューの中では浅田次郎先生の「中原の虹第四巻にちらっと顔を見せますね。
ゆ: あの巻は孫文とは対立してしまった宋教仁が中心となるので、浅田先生は結構批判的に孫文を描いていた印象がありますね、多分嫌いなんでしょう(笑。
は: 実際非常に短気で気分のムラの激しい人物だったようですね。
ゆ: まあ冗談はともかく、清朝末期から中華民国建国、毛沢東による中国統一までの激動の時代の中国において、具体的にどういう実績をあげたのかが世界史の教科書程度ではあまりはっきりと見えてこない人物なんですね。

は: 仕掛けた暴動は悉く失敗し、11回目の武昌蜂起でようやく辛亥革命(1911年)が成った時には孫文様ご自身はデンバーにおられましたし、臨時大統領の座を政治的駆け引きですぐに降りて袁世凱様に明け渡たされますし、その後も込み入った政治工作もむなしく結局統一政権は作れずに「革命未だならず」という遺言を残して亡くなってしまわれますね。
ゆ: はむちぃ君の説明どおり、革命家なのか思想家なのか政治家なのか、今一つ分かりにくい人物です。その思想も三民主義大アジア主義など、分かりやすいようでいて場当たり的で一貫性がないと言うのが後世の評価ですし。でも不思議な事に中国本土と台湾双方で今でも大変な尊敬を受けているんです。
は: 両国に中山大学(中山は孫文の号)という同じ名前の大学があるというのは極めて異例の事でございますよね。
ゆ: 日本にも何度も滞在した人だから日本でも孫文の名は他のこの時代の群雄に比して知名度は高いですしね。しかしその割には映画ではあまり見たことがないんですよ。邦画ではちょっと記憶がなくて、香港との合作の「宋家の三姉妹」くらいなんです。
は: 今回の映画はその「宋家の三姉妹」でも孫文役をされていたウィンストン・チャオ様が再び孫文を演じておられますね。
ゆ: ということで、今回は前置きが長くなってしまいましたが、この映画に関しては、映画の出来よりも孫文自体を知りたくて観てきたわけでございます。

『2006年、中国、
深圳電影製片廠製作
提供: バンダイビジュアル

スタッフ:
監督: デレク・チウ(趙崇基)
撮影: チェン・チーイン(陳志英)
美術: テレンス・フォック(霍達華)
キャスト: ウィンストン・チャオ(趙文宣) 、アンジェリカ・リー(李心潔)、ウー・ユエ(呉 越) 、チャオ・チョン、ワン・ジェンチョン、ヴィッキー・リウ 他

1910年、中国近代国家への夜明けにつながる“革命前夜”。亡命の地マレーシア・ペナン島を舞台に、度々の革命失敗の苦境と失意、そして暗殺の危険に遭いながらも、愛する人に支えられ、理想を失わなかった世界的革命家・孫文の闘いと愛の日々を描く一大歴史ロマン。』

は: 英語の題名が「夜明けへの道」となっておりますように辛亥革命の1年前、苦境の中マレーシアのペナンに亡命していた時代を描いておりますね。
ゆ: 日本を国外追放になってしまってたどり着いたわけですが、ズバリ目的は革命の資金集めだった事がこの映画を観るとはっきりしますね。
は: 港湾労働者の労働条件の悪さに憤慨し、華僑経営者との交渉により賃金アップと休憩時間を勝ち取るという美談も挟まれてはいますが、
ゆ: 結局の所、彼の名声と巧みな弁舌により資金のある華僑をはじめとして世界中から革命資金を集めまくった、というのがおそらく彼の一番の業績だったのかなと思わせるような映画でしたね。そういう意味では、ほんの一時期の孫文を描いただけではありますが彼の実像がある程度見えてきた有意義な映画だったと思います。

は: もちろん女性とのロマンスや暗殺者に狙われる危険を省みない勇気も描かれておりまして、娯楽映画としても十分鑑賞に耐える内容でございます。
ゆ: 実際彼は生き延びて再亡命するわけですから、あれだけ命を狙われていて死なないのも歴史通りなので一応リアリティはありますわな(笑。この頃の彼の伴侶だったチェン・ツイフェンを演じるウー・ユエも好演ですね。孫文が後年宋家の次女と結婚してしまう事が分かってるだけに余計にいじらしかったです。

は: という事で今回は佳品程度の作品ではございますが、孫文という人物に興味のある方や「宋家の三姉妹」をご覧になった方には一見の価値はございますでしょう。
ゆ: 不遇の時代の一断面を切り取る事により、うまく孫文の人間像を浮かび上がらせていると思いました、地味ではありますがデレク・チウという監督の慧眼が光る映画だと思います。

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2009/09/02

ドラゴンボール EVOLUTION

ドラゴンボール EVOLUTION (特別編) [DVD]
ゆうけい: は~むちぃく~ん、あ~そびまっしょ!(^^)!
はむちぃ: ともだちですか、あんたは(ーー;)、はは~ん、またまたトホホ映画に手を染めようとされておられますね。
ゆ: またまた人を犯罪者みたいに~、ちなみに20世紀少年第3部じゃないよ。これだよ~。
は: おおっ、これは換骨奪胎映画と話題になったハリウッド版ドラゴンボール、、、 

『DRAGONBALL EVOLUTION
2009年、アメリカ映画
配給:20世紀フォックス映画
監督:ジェームズ・ウォン 
製作総指揮:鳥山明 
製作:チャウ・シンチー 
出演:ジャスティン・チャットウィン,
エミー・ロッサム、チョウ・ユンファ、ジェームズ・マースターズ、田村英里子、他

鳥山明原作による国民的人気コミックを実写映画化したアクションアドベンチャー。亡き祖父の遺志を継ぎ、世界中に散らばった7つのドラゴンボールを探す旅に出た孫悟空たちと、絶大な魔力によって世界征服を企むピッコロ大魔王との熾烈な戦いを描く。(AMAZON解説より)』

ゆ: 困っちゃうな~、こんなまともに作っちゃ(笑。
は: 「日本アニメの金字塔であるドラゴンボールの実写版」という観念を捨てさえすれば、
ゆ: 立派なハリウッドB級映画になってますよね、一応脚本は首尾一貫してるし、VFXもそこそこ安っぽくて心地よいし、ERIKOには悪いけど、B級スターたちの演技もほほえましいし。
は: B級というところがミソでございますね(笑。
ゆ: 「少林サッカー」のチャウ・シンチーが「ベスト・キッド」を模倣したらこうなるみたいな。但し、ベスト・キッドがそれなりに感動するB級なのに比べると、こちらはやっぱりな~、って笑っちゃうB級ですけどね。

は: 敢えてトホホな所をあげるとすれば、どのあたりでございましょう。
ゆ: 考え様によっては全部ですね(爆。
は: まともに作ってあると言っておきながら(;一_一)
ゆ: まあまあ(^_^;)、問題はとにもかくにもドラゴンボールであることですよ。それを考えたらトホホとしか言い様がないですしょう。ゴクウにしても、亀仙人にしても、原作のイメージからは程遠いですよね。
は: 孫悟飯様だけは一応まともでしたかね。
ゆ: 多分ベスト・キッドのミヤギ(パット・モリタ)を下敷きにしたんで格好はついたんでしょうけど、何ですかあの

「第一のルール:ルールはない」

ってのは(苦笑?おまけに「氣」の英訳が「キー」ですよ、みなさん。
は: チチブルママイにしてもハリウッド式お色気サービス満点で、原作の色気とは全然違いましたね。
ゆ: チチの色気でゴクウがカメハメ波を習得するなんてもう呆れてものも言えませんね(笑。

は: 確かに「別次元」のドラゴンボール、というのが売り文句でもあり、結論でもございますね。
ゆ: B級コレクターがこの世の中には沢山おられますからまあその方々の蒐集欲は満たせる映画だとは思います。
は: ラストのテーマソングは如何でございます?
ゆ: へっ、何だかノイズのようなものは聞こえた気がしますが?
は: 知りませんよ~、全国ウン千万のアユ・ファンを敵に回しても~(ー_ー)!!
ゆ: こんな弱小ブログ炎上しますかいな(笑。それより続編があるみたいなエンドロール後のサービス映像の方が不安ですな。

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2009/08/15

はむちぃの夏休みお勧め洋画2本

Eisenheim
( The Illusionist )
 皆様こん**は、はむちぃでございます。本日は主人のゆうけいが高村薫女史のご著書により前頭連合野がオーバーロード状態でございまして、

「何も考える気がせん、はむちぃ、よろしく頼む」

との一言を残して呆けております故、久々に私メがレビューを担当させていただきます。
 今年は洋画のレビューが少のうございますが、結構観てはおります。その中から、もう新作時期を過ぎて借りやすくなったDVDなどを2本、前田有一様のレビューも参考にしながら紹介させていただきます。よろしくお付き合いくださいませm(__)m。

1:ワールド・オブ・ライズ( Body of Lies )

前田有一採点:70点
はむちぃ採点: 75点
ゆうけい一言: リドリー版アラビアのロレンス

ワールド・オブ・ライズ 特別版 [DVD]

『2008年/アメリカ/カラー/128分/配給:ワーナー・ブラザース映画
監督・製作:リドリー・スコット 
脚本:ウィリアム・モナハン 
原作:デイヴィッド・イグネイシアス 
出演:レオナルド・ディカプリオ、ラッセル・クロウ、マーク・ストロング、ゴルシフテ・ファラハニ

アラビア語を駆使し、イラク社会に溶け込んでいる若きCIA局員フェリス(レオナルド・ディカプリオ)。現地の風習を理解・尊重する彼に対し、直属の上司ホフマン(ラッセル・クロウ)は「中東は人の住むところではない」とうそぶくような男。安全な本国から電話一本で部下をこき使うくせに、献身的な現地協力者でさえ必要とあれば平気で切る冷酷さを持っていた。 長年追うテロ組織のリーダーをなかなか探り当てられない彼らだったが、ある手がかりからホフマンはフェリスにヨルダン行きを命令。そこでヨルダン総合情報部(GID)の局長ハニ・サラーム(マーク・ストロング)の協力を得よという。(前田有一の超映画批評より)』

 これぞ良くも悪くもハリウッド、典型的なCIA対アルカイダのアクション・ムーヴィーでございます。主人のゆうけいはこういう「金はかけたぞ、食らえこの野郎」的な映画には辟易しておりまして、普段は敬遠しがちなのでございますが、それでも観てしまったのは一重に監督が「ブレードランナー」「ブラック・レイン」「グラディエーター」「ブラックホーク・ダウン」のリドリー・スコット様故でございましょう。

 リドリー・スコット映画といえば何と申しましても独特な映像美が最大の魅力でございますね。今回も北アフリカのロケにおいて8台のカメラを常時同時に作動させて撮影された映像美には目を奪われるものがございます。途中でラッセル・クロウがアラビアのロレンスを揶揄するシーンがございますが、あの映画を髣髴とさせるものがございました。

 内容も元ワシントン・ポストの中央アジア派遣記者デイヴィッド・イグネイシアスと綿密に練り挙げた原作を「デパーテッド」のウィリアム・モナハンが脚本に書き下ろしただけの事はあり、実によく考え抜かれております。CIAの諜報部員が場末の看護士にころりと参ってしまう如何にもハリウッド的な安直な設定はいかがなものかとは思いますが(笑。

 アラビアのロレンスではオマー・シャリフが主演のピーター・オトゥールに負けない存在感を示しておられましたが、今回はハニ・サラーム役のマーク・ストロングが美味しいところをさらった感がございます。ラッセル・クロウの老練な演技、すっかり演技派俳優となられたレオナルド・ディカプリオの体を張った素晴らしい演技もさすがと思わせはいたしましたが、マーク・ストロングは「嘘」を絶対に許さないエリート・アラブ人の情報部局長という役どころを圧倒的な存在感で演じておりました。ディカプリオに「Don't tell me a lie!」と釘をさすところなどはゾクゾクいたしましたね。

 という訳でございまして、前田有一様の「映画自体の思想が古い」という厳しい指摘は甘受すべきとは存じますが、それでもリドリー・スコットの隅々まで配慮の行き届いた映像美と役者を活かす監督手腕により観るに値する映画となっている点を評価し、75点をつけさせていただきました。

2:幻影師アイゼンハイム(The Illusionist)

前田有一採点: 60点
はむちぃ採点: 78点
ゆうけいの一言: この監督はフェリーニ・フォロワーか?

幻影師 アイゼンハイム [DVD]

『2006年/アメリカ・チェコ/109分
監督: ニール・バーガー
撮影:  ディック・ポープ
音楽: フィリップ・グラス

長きにわたり隆盛を誇ったハプスブルグ家も斜陽にさしかかった19世紀末のオーストリア、ウイーン。天才イリュージョニストのアイゼンハイム(エドワード・ノートン)のショーを観に、皇太子レオポルド(ルーファス・シーウェル)が許婚のソフィ(ジェシカ・ビール)とやってくる。出し物に参加させるためソフィを舞台にあげたアイゼンハイムは、彼女がかつて自分とかけおちを誓った幼馴染だと気づく。

さて、アイゼンハイムは身分の差により引き裂かれた彼女との恋をずっと忘れられずに生きてきた男。一方ソフィも、傲慢なDV男のレオポルドとの政略結婚などイヤイヤ。今でもアイゼンハイムだけを愛している。キツい監視下で再び互いを求めあう二人だが、その先には過酷な運命が……。』

 舞台は10世紀末のウィーン、華麗なる幻影師と貴族の女性の恋物語といえばヨーロッパ映画かと思いきや、みんな英語を話しているというのが最大の驚きだったとゆうけいが申しておりました(笑。

 冗談はさておき、本筋は貴族と賎民の恋物語というべたなネタでございます故、映画の成功の如何は映像の素晴らしさにかかっているといっても過言ではございません。その一点においてこの映画は素晴らしい出来であり、観る者を引き込んで止みません。耽溺できる、と申し上げてもよいくらいでございましょう。
 プラハで撮影されたという19世紀末のウィーンの情景や、衰退しかかっているとはいえ欧州一の貴族であったハプスブルグ家の皇太子の宮廷のさすがの絢爛豪華さ、そしてまだ電気の無い時代の炎による劇場の照明などがとても印象的で、ちょっとフェリーニ映画を思い起こさせるほどでございました。

 主人公アイゼンハイムのイリュージョンのVFXも見所でございます。しかし中にはあまりにも見事すぎて現実感が無いものもございました。また、彼の仕掛けるヤマ場のトリックがあの時代ではとても無理だろうと思うほど荒唐無稽なのが難点ではございますが、まあそんな事をいうのも野暮だろうというくらい素晴らしいイリュージョンを堪能できる事は間違いございません。

 さて、キャストで一番のキーとなる俳優は主演女優のジェシカ・ビールでしょう。彼女の役柄に求められるのはハリウッド的美貌でもなく、闊達な演技力でも無く、全ての所作に高貴な雰囲気を醸し出せる点であると思いますが、それを十分にこなしておられました。主人のゆうけいが「あの女優がこんな高貴な演技が出来るとは」と驚いておりましたが、この映画をきっかけに演技派として広く認められたそうでございます。これからの活躍が楽しみな女優さんですね。
 そう言えば警部役のポール・ジアマッティが髭男爵に見えて笑えてくるとゆうけいが申しておりました。

 以上、前田有一様は冷静に評価して60点という辛い点数をつけておられますが、雰囲気を楽しむ映画としては素晴らしい出来である事、それにフィリップ・グラスのミニマルでモノトナスな弦の響きが意外に映像にフィットしている事を加点して、78点をつけさせていただきました。

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2009/08/09

ハリー・ポッターと謎のプリンス

Action3
はむちぃ: 皆様こん**は、本日の映画レビューはただいま劇場公開中のハリポタシリーズ第6作目となります「ハリー・ポッターと謎のプリンス」でございます。主人公の皆様も随分成長なさいましたね。しかし、何故に冒頭写真がダニエル・ラドクリフ様ではなくてエマ・ワトソン様?
ゆうけい: 「賢者の石」を再鑑賞するのも一興かもしれませんね。まあ、一番成長が楽しみなのがエマですから(笑。
は: さすがtwitterでエマ様をフォローされておられるだけの事はございます(-.-)(ボソッ。
ゆ: これこれはむちぃ、余計な事はイワン・レンドル。

『人気シリーズ第6作。ハリーの宿敵ヴォルデモートの過去が描かれる。幼少期のヴォルデモート=トム・リドルを演じるのは、レイフ・ファインズの甥ヒーロー・ファインズ・ティフィン。ヴォルデモートとの最終決戦が迫っていることを予感するダンブルドア校長は、ハリーとともにヴォルデモートの守りをとく手がかりを見つけようと、かつて学生時代のトム・リドルを教えたこともあるホラス・スラグホーンを魔法薬学教授として学校に迎える。

Harry Potter and the Half-Blood Prince 
2009年、イギリス、アメリカ、154分
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:デヴィッド・イェーツ 
原作:J・K・ローリング 
脚本:スティーヴ・クローヴス 
出演:ダニエル・ラドクリフ ルパート・グリント エマ・ワトソン ヘレナ・ボナム=カーター デイビッド・ブラッドリー  アラン・リックマン 他』

は: う~む、前回「フェニックスの騎士団」のレビューでご主人様がおっしゃったように、最終話へのブリッジという難しいシチュエーションではございますが、この作り方はいかがなものでございましょう?
ゆ: 今回もDVDになるまで待った方がよかったかもね~(嘆息。はっきり言ってハリポタ史上最低の作品でしょう。デヴィッド・イェーツもついに血迷ったか、と思わざるをえませんねえ。一応前回と同じように箇条書きにしますと

「原作の改竄とさえ思えるほどの脚本の致命的な失敗」
「演出過剰なのに緊張感がない」
「ラブコメなのに暗い」
「俳優に魅力がどんどん減じていく」
「CGに余り見るべき物が無くストーリーと絡んでこない」

今回は褒め言葉が見つかりませんねえ。

は: 巷間言われておりますように、学園内での恋の鞘当てが過ぎると言うところでございましょうか。
ゆ: 一番の問題はそこでしょうね。回を追う毎に長尺となっていく原作を3時間程度にシェイプアップしていく作業が大変なのは分かるのですが、今までは

「ハリー・ポッター・サイド 対 ヴォルデモート軍団」

という原作全体を通して貫かれている構図を中心にすえる事だけは忠実に守っていたと思うんです。ところが、今回はあまりにも変更・脚色が過ぎて、はむちぃ君の言うようにラブコメと化した中間部で完全に映画が弛緩してしまい、シリーズ全体を通して守られてきた緊張感が完全に失われてしまいましたね。
は: デス・イーターに任命されたドラコ・マルフォイ様だけがやたら悩んでいるのが痛々しゅうございました。
ゆ: ハリポタ軍団がやたらいちゃいちゃしまくってるので、痛々しいのを通り越して滑稽にさえ思えましたね。ひとえにイェーツ監督の責任でしょう。

は: 最初に人間界の近代的なミレニアム橋が崩れ落ちるところは凄いCGでございましたが、それだけで終わってしまい、学園どころか魔法界全体、更には人間界にも崩壊の危険が迫ってきていると言う切迫感がまるで無かったですね。
ゆ: それなのに雰囲気だけはやたらと暗い、これでは一体どういう映画を作りたかったのかわからないですね。大体からミレニアム橋が崩れ落ちると言うのは原作には無い設定で、あそこまでやるなら魔法省と英国政府の交渉をちゃんと描いても良かったと思います。他のCGではアイルランドの有名な海岸線をロケして合成した洞窟の入り口のシーンは壮大で目を見張りましたが、洞窟の中に入るとちゃっち過ぎてこれもアンバランスになってしまいました(涙。

は: それに今回はヴォルデモートは姿さえ見せず(若い頃を除く)、デス・イーター軍団の攻勢も殆ど描かれませておりませんね。
ゆ: ヴェラトリックス役のヘレナ・ボナム=カーターだけはやたら頑張ってますけど、やる事がせこ過ぎて腹立たしくさえ思いました。実は原作では終盤にヴェラトリックスをはじめとするデス・イーター軍団がついに学園内に侵入し、学園サイド+不死鳥の騎士団と壮絶な死闘を繰り広げた末についにダンブルドアが斃れるのですが、その本作でも一番重要な場面をばっさり切り捨ててしまうとは呆れてものが言えません。
は: 前回は死闘の末にシリウス・ブラック様が斃れましたのでそれなりの感動もございましたが、今回は呆気なかったですね。
は: ダンブルドアの最期をあのように軽くしてしまうとは、原作の大きな流れを完全に損ねてしまいましたね(嘆息。

は: そこまでして描きたかったラブコメシーンも何かだらだらしてるだけと言う気もいたしました。
ゆ: もともと個人的には原作でのハーマイオニー・グレンジャーの知性的な部分を描いていない事がこの映画シリーズを通しての一番の不満だったのですが、もう今回に至って堪忍袋の尾が切れました。切れついでに言わせていただくと、ハーマイオニー役のエマ・ワトソン以上の美人を持ってくるのがまずいと判断したんでしょうけど、他の女子が軒並み不●工過ぎて、勝負にも何にもならんじゃないですか。逆にエマくらい魅力のある俳優をオーディションして来いって言うんですよ。
は: おおっ、ご主人様、今回は相当お怒りでございますね(^_^;)。他に魅力的な女優様はいなかったのでございますか?
ゆ: エマの次に美人なのがヘレナ・ボナム=カーターじゃねえ。胸の谷間勝負ではヘレナが貫録勝ちしてましたけど(笑。色恋に関係無いところでは、前回も申し上げましたがルーナ・ラブグッド役のエバナ・リンチが、今回もコケティッシュな好演を見せてくれましたけどね。

は: 常連の俳優さんはいかがでしたか?
ゆ: ただ一人、セヴェラス・スネイプ役のアラン・リックマンだけがその存在感を際立たせておりましたね。
は: 味方か敵か分からない不気味さを重厚な演技で演じ切っておられましたね。
ゆ: 他のレギュラーが年を重ねるに連れ魅力を失い下手な脚本と演出の犠牲となる中で、彼だけは超然としていて素晴らしい。率直に申し上げて、この後の原作の流れを鑑みて、ハリーの取り巻きよりも彼を準主役級にして脚本を組み立てていった方が良かったのではないかと思いますね。

は: というわけで今回はトホホなブリッジ作品となってしまいましたが、とりあえず最終話「死の秘宝」へのつなぎ役は最低限果たしたと言うところでしょうか。
ゆ: セヴェラスがダンブルドアを倒した事と、分霊箱の謎を説明した事だけがこの映画の意義だったとはまあ情けないですねえ。
は: それと殆ど気づかないほどの扱いでございましたが、冒頭で魔法杖店のオリヴァンダー様が誘拐されたことも忘れないで下さいませ。と言うことで、「死の秘宝」第一部は来年11月、第二部は2011年夏公開だそうでございます。
ゆ: 皆さん気長に待ちましょう(笑。ちなみにアラン・リックマンヘレナ・ボナム=カーターは来年春のティム・バートン作品「Alice In Wonderland」に出演するはずですのでお見逃し無く!

は: ではご主人様、最後に一言お願いいたします。
ゆ: 正直に申し上げて映画館の入館料に見合うだけの映画ではないと思います。それと、これは原作にも言えることなのですが、「Half-Blood Prince」は「混血のプリンス」であって「謎のプリンス」ではありません。こういう自主規制は日本語への冒涜です。

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2009/06/14

路上のソリスト(The Soloist)

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はむちぃ: ゆうはむ映画レビュー、今回は現在公開中の洋画「路上のソリスト」でございます。LAタイムズのコラムニストのコラム記事から始まった実話に基づく物語でございまして、当然ながらLAが舞台でエサ=ペッカ・サロネン&LA交響楽団が全面的に協力していることで話題になっております。
ゆうけい: クラシック・ファン&オーディオファイルには必見、と言いたいところなのですが、決してそんなに単純に音楽を楽しむ映画ではございません事を最初にお断り申し上げておきます。と言いつつ、初めて内部が公開されたウォルト・ディズニー・コンサートホールの威容には度肝を抜かれましたな(笑。
は: 音楽モノといいますと、ご主人様があまりの脚本のトホホぶりに辟易された「奇跡のシンフォニー」などを思いだしてしまいますが(^_^;)?
ゆ: あの脚本のサービス精神たっぷりのアリエナイザー的展開がハリウッド的虚構世界でのサニーサイドを象徴しているとすれば、この映画はまさに現実世界の暗黒面を正面から見つめていますね。マーラー5番勝負part IIで疲れ果てているはむちぃ君につきあわせるのはチト気の毒なんだが、どうしても見ておきたくてね。
は: 映画は私のメインの担当分野でございますからかまいませんよ、その代わり今日はボケ無しでまいりますよ(-.-)ボソッ。では映画紹介からまいります。

『アカデミー賞で7部門にノミネートされた『つぐない』(07)のジョー・ライト監督が、「音楽に対して本気で取り組むなら、世界がひれ伏す才能だった」と語られる天才音楽家・ナサニエル・エアーズの物語を映画化。主演は、『Ray/レイ』(04)で伝説のジャズ・ミュージシャン、レイ・チャールズを演じて、アカデミー賞を獲得したジェイミー・フォックスと、『アイアンマン』(08)の大ヒットが記憶に新しい、ロバート・ダウニーJr.。

ロサンゼルス・タイムズで「弦2本で世界を奏でるヴァイオリニスト」と題されたコラムで紹介された、ナサニエル・エアーズ(ジェイミー・フォックス)。ジュリアード音楽院に通い、華々しい将来を約束されていたのに、ある病気(統合失調症、ゆうけい付記)が原因で路上で暮らすことになった天才音楽家。コラムの執筆者スティーヴ・ロペス記者(ロバート・ダウニーJr.)は、ナサニエルと関わっていくことで、ナサニエルの才能に感服し、音楽家としての人生を取り戻してほしいと願い、彼の治療を計画する。しかし、ナサニエルのとった行動は、ロペスの人生観を根底から覆すものだった。

監督:ジョー・ライト
製作:ゲイリー・フォスター、ラス・クラスノフ
製作総指揮:ティム・ビーバン、エリック・フェルナー、ジェフ・スコール、パトリシア・ウィッチャー
原作:スティーブ・ロペス
脚本:スザンナ・グラント
撮影:シーマス・マクガーヴェイ
美術:サラ・グリーンウッド
編集:ポール・トシル
音楽:ダリオ・マリアネッリ
2009年アメリカ映画、配給:東宝東和
上映時間:1時間57分』

は: 予想以上に暗くて重い映画でございましたね。
ゆ: そうですね、単純な音楽ものでも無く、どこかの国の絵空事のような難病ものでもなく、フィクションに限りなく近いからこそ、どうしても心の奥にどんよりと残ってしまう後味の悪さがありますね。
は: 以前ご紹介した英国映画「この自由な世界で」に似た重さでございますね。監督のジョー・ライト様が「偏見とプライド」のような映画を撮る英国人監督である、という事もあるのでしょうか。
ゆ: そうですね、映画のタッチを決めるのは監督ですからそれも大きいと思います。しかしそれよりも何よりも「統合失調症」をリアルに描ききっている事が大きいでしょうね。

は: LAの公園の一角のベートーヴェン像の前で二本しか弦の無いボロボロのヴァイオリンから素晴らしい音色を奏でる、奇妙な風体で喋ることの支離滅裂なホームレスの黒人にLAタイムズのコラムニストが興味を惹かれ、調査してみると本当にジュリアード音楽院に在籍した事のある才能あるチェリストだった事が判明して、と言う出だしで物語は始まりますが、
ゆ: どう見ても彼は精神を病んでいる。しかし彼の音楽的才能は見捨てるには惜しい。そこでスラム街にあるLAMPという精神障害のホームレスを収容する施設に彼を入れようとする。さてその後の成り行きは?というところなんですが、とにかく感動モノのヒューマン映画に仕立てようとするなら

「統合失調症でも音楽的才能があればこんな素晴らしい事が可能だ」

というスタンスでエンターテインメントの方向に振れば済むのですが、そうでなく

「どんなに素晴らしい音楽的才能があっても統合失調症を発症してしまえばこうなってしまうんだ」

というノンフィクション映画に近いスタンスで作ったところにこの映画の意義があると思いますね。

は: その代償として映画の人気、興行的収入を犠牲にしてしまうリスクがございますよね。
ゆ: その通り、大評判になった新聞コラムの実話の映画化と言う話題性に乗っかって安易な映画を作らなかった製作サイドの慧眼とも言えますが、数々のオファーからこのプロデューサーを選んだ原作者のスティーブ・ロペスの選択の結果でもあるとも思います。
は: プロデューサーはハッピーエンドにはなり得ないこの物語を「ユニークな友情の物語」として描きたいとロペス様に申し出て気に入られたそうでございます。
ゆ: となると後は監督・脚本家にしっかりとした人を持ってくる事ですね。
は: 先ずは脚本ですが、「エリン・ブロンコビッチ」で名を馳せたスザンナ・グラント様に白羽の矢が立ちました。
ゆ: 彼女はロペス氏のコラムを読んで感動し、

「難しいのはこれほど私を感動させた題材をどう伝えればいいのかということだった」

と述懐しています。そしてその方法として実在のナサニエル氏とロペス氏とかなりの時間をともにする事で構想を固めていき、幾つかの架空のシチュエーションを加えた上でこのシリアスな脚本を書きあげたそうです。、英国の気鋭の若手監督ジョー・ライトはこれがハリウッド初作品だそうですが、アメリカから送られてくる沢山のオファーの中から

「英国人としてのアウトサイダーの視点が有利に働くかもしれないと感じてこの脚本を選んだ」

そうです。ただ、近代的大都市にして路上生活者6万人と言われるLAに降り立ち、高層ビル群に接するスラム街スキッド・ロウに足を踏み入れた時は、アメリカ資本主義社会の現実を目の当たりにして、かなりの衝撃を受けたようです。
は: 主人公ナサニエルがスキッド・ロウで多くの浮浪者の幸せを神に祈りますが、本当に「天使の街」という都市名が皮肉なほどのすさみ様でございますね。
ゆ: もう一人の主人公であるコラムニストのロペスは取材を重ねるうちにそのナサニエルの姿に打たれ、また彼の才能故に彼をどん底の生活から救いあげようとします。また、スキッド・ロウの住民の福祉向上を市長に掛け合い多額の予算を配分させることに成功しますが、それがどういう結果をもたらすか、そしてそれが本当に意味のある行為だったのか、この映画は冷酷なまでに問い詰めていきます。

は: その二人の主人公を演じるのが「レイ」でアカデミー賞を受賞したジェイミー・フォックス様とロバート・ダウニーJr様ですね。
ゆ: ジェイミー・フォックスの演技は今回も入魂でしたね。彼はピアノを弾けるので音楽の素養があるんですが、
は: 今回ナサニエルを演じるに当たってヴァイオリン、チェロをプロから学び、更には統合失調症の専門医師とも会って研究を重ねたそうでございます。
ゆ: それでも「レイ」のレイ・チャールズの演技の印象が強烈なのでしばしばナサニエルが盲目だと勘違いしそうになって困りました(笑。
は: 一方ロペスを演じるダウニーJr様も自分の行為の正当性について悩むコラムニストを渋く重厚に演じておられましたね。
ゆ ただ、ちょっとナサニエルとの距離感に戸惑っている感じは否めませんでした。後で買ったパンフレットを読むと、「アイアンマン」「「トロピック・サンダー」と忙しくリサーチの時間を全然取れないまま撮影に突入し、またジェイミーと別撮りの場面も多くて、

「ジェイミー・フォックスは今回素晴らしい演技をしていると思う。だが、一つ残念なのは彼との共演の醍醐味をあまり味わえなかったこと」

だと語っていて、さもありなんと思いましたね。

は: さて、難病モノ嫌いのご主人様から見て、ジェイミー様の統合失調症の演技はいかがでございましたでしょうか?
ゆ: 十分合格点だと思いますね。コミュニケーションの難しさ、幻聴による社会生活の困難さなどを、普通の人が見れば怖がるくらいに演じていましたから。実際精神病院からの紹介患者を日常的に見ている者として、この病気の患者とコミュニケーションをとる事がどれほど困難であるか、どれほど他者を困らせるかは痛いほど良く分かります。
は: パンフレットで日野原重明先生がこの病気について解説しておられますが?
ゆ: 正直言って通り一遍の楽天的教科書的解説で、ナサニエルのような実際の患者の実態をあまりご存知ないんじゃないかと思いました。決して妬みで言うのではなく、内科で象牙の塔の最重鎮として医療の王道を歩んで来られた方の目にはなかなか触れない醜悪な現実がこの世界には存在するのだ、という事をこの映画の方が良く教えてくれるんじゃないですかね。
は: もちろんそれで日野原重明様の功績が損なわれえるわけではございません。
ゆ: 柴田錬三郎先生ではありませんが、まあ一言だけでも地べたから物申したかっただけです(苦笑。

は: さて、最後になりましたがこの映画のもう一つの大きなテーマである音楽はジョー・ライト監督との付き合いも長く、「プライドと偏見」ではアカデミー賞も受賞されましたダリオ・マリアネッリが担当しておられます。
ゆ: 監督とも相談の上、今回はナサニエル氏本人が尊敬しているベートーヴェンを選んで見事にアレンジしておられますね。登場した曲をざっと挙げてみますと、

交響曲第3番「英雄」
弦楽四重奏第12、14、15番
ピアノとチェロのためのソナタ第4番
ピアノ・ヴァイオリン・チェロのための三重協奏曲ハ長調Op56
交響曲第9番「合唱」
バッハ / 無伴奏チェロ組曲第1番ト長調BWV.1007

などでした。
は: LASOのリハーサルを聴いて感動するナサニエル様の視覚イメージとしての色彩が画面に乱舞する「英雄」、そしてラスト・シーンでサロネン様がお振りになる第9番がやはり出色の演奏でございました。
ゆ: あの色彩の乱舞はてんかんの方は見ない方が良いですね、発作を起こしてしまいそうです(マジ。もちろん正論的にははむちぃ君の言う通りなんですが、映画的にはコラムに感動した老婦人から贈られたチェロを手にしてトンネルの中で弾き始める四重奏第15番イ短調Op.132が良かったですね。
は: トンネルからカメラを上方にパンして飛翔していく鳩の群れをとらえる手法により、見事にロペス様の心象風景と重ね合わせていましたね。
ゆ: 撮影監督のシーマス・マクガーヴェイのこの映画一番の腕の見せ所でしたし、それに15番のチェロの音色がよくマッチしていました。
は: ジョー・ライト様がこの映画の目的としていた

Above & Below
ベートーヴェン & ホームレス
映像 & 音

を融合させるという意図が見事に達成されたシーンでございましたね。
ゆ: この曲はベートーヴェンが腸カタルで病床についていた時期を挟んで書かれ、「病癒えた者の神への感謝の歌」というテーマがあるそうですが、それが映画自体のテーマとも重なっており、この映画に一段の深みを与えておりましたね。

は: というわけでございまして、決して万人向けの映画ではございませんが見応えのあるヒューマンドラマにベートーヴェンの音楽が融合いたしました秀作でございます。
ゆ: 見ていて決して気分の良い映画ではございませんが、たまには見応えのある映画を見たい、ついでにクラシック音楽も楽しみたい、という方は是非ご覧下さいませ。

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2009/05/12

WALL・E(ウォーリー)

ウォーリー [DVD]
はむちぃ: 皆様こん**は、本日の映画レビューは洋画アニメで世界的に大ヒットし、本年度アカデミー賞長編アニメーション賞も受賞いたしました「WALL・E(ウォーリー)」でございます。
ゆうけい: 短編賞の「つみきのいえ」に続いてこれでアカデミー賞のアニメ部門は制覇しますな(笑。まあ冗談はともかく、ディズニー傘下に入ったとは言え、数々の傑作を生み出してきたPIXAR Animation Studioの作品ですからな、決して失望させてくれることは無いでしょう。
は: では早速参りましょう。 

『キミは、ボクのタカラモノ。
宇宙で一番ピュアな愛が、地球を救う力になる。
ピクサーが贈る、29世紀のラブストーリー

700年間、ひとりぼっちで働いてきたゴミ処理ロボットのウォーリー。
ある日突然、ピカピカの天使が現れた。地球の未来を変える、驚くべき秘密と共に…。

『モンスターズ・インク』『カーズ』のスタッフが結集!
ディズニー/ピクサー史上最大のスケールで贈る、“愛”と“感動”の最高傑作!
(AMAZON解説より)』

は: 圧倒的な完成度を誇るCGを背景に、感情を持つようになったロボット同士のほのかな交歓を描いてなかなか泣ける作品でございましたね(ウルウル。
ゆ: はむちぃ君もバーチャルで暮らすうちに随分知性と感情を身に付けたからねえ(笑。確かにピクサーの面目躍如たるものがありますな、

「どうだい、これが世界水準のアニメだよ」

とピクサー総帥のジョン・ラセターが胸を張っているような気がしますね。旧型ロボットのウォーリーと最新鋭ロボットのイヴの造形も上手いし、この二人(?)を軸とした無声映画的ストーリー展開はちょっとチャップリンを連想させるほどで、本当に面白かったですね。でもねえ、、、(ーー;)
は: は、何か瑕疵がございましたでしょうか?
ゆ: う~~~ん、、、、、(-_-)
は: ご主人様がこういう映画で考え込まれるときはプロットか、SF設定でございますね、多分。

ゆ: 図星ですな(苦笑。先ずストーリーの大前提の説明が弱すぎるんだよね。
は: 何故人類が地球上から完全に姿を消したのか、生物が絶滅したのか、という点でございますね。
ゆ: その通り。後半で一応理由は分かるんだけど、それでは弱すぎるでしょう。基本的設定に瑕疵があると映画全体に説得力が無くなるんだよねえ。

は: SF的設定でもお気に召さない点がございましたか?
ゆ: もうそれは色々とありまくりで、全部は語れないほどですね。虚構世界の中で愛を描いてきたピクサー・スタジオの作品なんですが、ここまで無茶な設定をしているのは珍しいですねえ。
は: あまリしゃべりすぎるとネタバレにもなりますしね。では一番気に入らない一点だけお願いいたします。
ゆ: 700年間ユートピアのような巨大宇宙船の中で暮らした人類が、

「皆同じようなデブデブの体型になり、骨格も筋力も弱り、ロボットの助け無しでは起居さえままならなくなっている」

と言う描写は結構秀逸だと思うんです。
は: はいはい、これは現実に宇宙生活で危惧されている点も含まれておりますね。
ゆ: その通り、だからこそその設定をラストの方で活かしてくれると思っていたんだ。ネタバレにならない程度にぼかして言うと、私はてっきり

「一見人間としての尊厳を取り戻したように見えるバカ船長より、実はコマンドの通りにしか判断できないオートパイロットの方が実は正しかった」

という、皮肉などんでん返しが用意されていると思っていたんだけれど、全くのスルー。。。(--〆)
は: そう言われますと確かに、人類はダシに使われただけでございましたね。

ゆ: でもまあ、のほほんと見るには良い映画ですね、サッチモの「ラヴィアン・ローズ」をはじめとするトーマス・ニューマンの選曲・音楽も良いし、この映画のキーとなる男女が手をつなぐシーンの出てくる映画が「ハロー・ドーリー」であるところもノスタルジアを感じさせて良いですね。
は: 「ハロー・ウォーリー」と言ったところでございましょうか、ピクサーの総帥ジョン・ラセター様の温かいお人柄が偲ばれますね。
ゆ: そうですね、そう言えばエンドロールの最後の方で

in loving memory of Justin Wright

というクレジットが流れてきました。調べてみましたら、Justin Wrightさんは心臓病で心臓移植を受けた既往のあるピクサー社の社員で、去年心臓発作で亡くなられたそうです。最新の技術を応用しながら社員一人一人の仕事を大事にするピクサーの一面が見て取れますね。
は: それがピクサー映画が傑作を生み続ける秘密かもしれませんね。そしてエンドロール終了後に待っているPIXARロゴとウォーリーのコラボレーションも、皆様お見逃しなく!

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2009/05/04

グラン・トリノ

Grantrino
はむちぃ: みなさま、こん**は、GWいかがお過ごしでしょうか、今日のレビューは、GWに是非ご覧いただきたい洋画「グラン・トリノ」でございます。監督・主演のクリント・イーストウッド様は先日わが国の春の叙勲に叙せられ、話題になりました。
ゆうけい: 彼自身が叙勲をどう考えているのかは知りませんが、丁度この映画のプロモのため来日していた息子さんのカイル・イーストウッド(ベーシストで音楽担当)がとても喜んでいましたね。おそらく硫黄島二部作がいたく選者の琴線に触れたのだと思いますが、まあ最終肩書きだけでタナボタで降ってくる叙勲とは違って、彼には十分受けるだけの資格があると思います。

は: そしてこの映画も傑作の誉れが高いですね。これも秀逸な前作「チェンジリング」から殆ど間をおかず作られたとは思え無いほどの完成度には、はむちぃメ、驚きを隠せませんでした。
ゆ: 全くね、元々俳優出身だけあって殆ど全てをワン・テイクで撮ってしまうし、息のあったイーストウッド組を全面的に信頼しているから、あっという間に撮影は進んでしまうらしいけど、それにしても呆れるほどいとも簡単に傑作を作っちゃいますね。
は: 今回は新人脚本家ニック・シェンク様の持ちこみ脚本をいたく気に入って自ら主演・監督を買って出たとのことですね。
ゆ: これをやるのは自分しかいない、と一読して思ったそうです。彼は新人を世に出すことを自分の使命と感じていますし、その点でも素晴らしい監督ですね。彼を巨匠と呼ぶのはもう誰も否定しないと思うけど、それにしてもこれが79歳の監督が79歳の俳優を主人公にして撮った映画とは信じ難いねえ。

は: はむちぃメ、パンフレットを読ませていただきましたが、このお年でこのような傑作の監督・主演をするのはオーソン・ウェルズチャーリー・チャップリンにも不可能だったし、おそらくウッディ・アレンにも不可能であろうと書いてございました。
ゆ: まるで元巨人の王・長嶋の引退年齢を超えて4番を張っている阪神の金本みたいだな(笑。いや、冗談はともかく、マカロニ・ウェスタンと蔑まれ黒澤明の「用心棒」のパクリと非難された「荒野の用心棒」から彼の映画俳優人生が始まったことを思うと、

よくぞクロサワを超えたな!

と思いますね。
は: 黒澤明様は88歳でお亡くなりになりましたが、79歳以後に撮った映画は「夢」「八月の狂詩曲」「まあだだよ」の三本でございましたね。
ゆ: もうすっかり老成しちゃって、今のイーストウッドのような興行的にも芸術的にも映画を成功させるエネルギーは残っていませんでしたからね。
は でははむちぃメが序盤をまとめてみましたので、映画を振り返って参りましょう。

 舞台は現代のデトロイト。かつての自動車王国の面影はなく、住宅街は黒人やアジア系移民で溢れ、民族間の小競り合いが耐えない。そんな治安の悪い街からは白人は殆ど出て行ってしまった。
 主人公のポーランド系白人ウォルト・コワルスキクリント・イーストウッド)は、頑固で不機嫌な老人。元フォードの熟練工である事を誇りにし自らがスティアリング・コラムを取り付けた愛車のグラン・トリノを磨き上げる事が唯一の楽しみである。また、朝鮮戦争も出征したが、その際の苦い記憶を持つ。
 映画は彼の妻の葬儀で始まる。トヨタのディーラーをして羽振りのいい息子がランドクルーザーに乗っているのを苦々しく思い、葬儀にへそ出しルックで表れた孫には愛車を褒められても唾を吐き、亡き妻から面倒見を頼まれてやってくる神父には悪態をつく。「移民が増えた」と怒りながらも、転居して施設で暮らすよう説得する息子夫婦を叩きだすほど愛着のあるこの街を離れない彼は、護身用の銃で、周囲に睨みをきかす。
 そんなある日、隣に住むラオス・モン族の一家の息子タオ(ビー・バン)が、グラン・トリノを盗もうと忍び込む。見つけたウォルトは激怒するが、根はまじめなタオが従兄らに脅されていると知り、興味を覚える。そこからタオとタオの聡明な姉スー(アーニー・ハー)との交流が始まり、ウォルトはこのアジア系の隣人を理解し好感を持つようになる、タオ一家も彼に心を開いていく。

ゆ: スマートなまとめありがたう、はむちぃ君、さすが昨日奥様に洗ってもらっただけの事はあるな(笑。
は: おそれいります(-.-)、それにしても本当にイーストウッド様しかできないような役柄ですね。
ゆ: 彼の当たり役ダーティ・ハリーを彷彿とさせますね、持ち込み脚本との事ですから、先ず間違いなく彼を念頭に置いて書いたんでしょうね。

は 序盤での状況説明も見事ですね。テンポ良く話が進んでいくとともに彼の置かれている状況がはっきりしていきます。
ゆ: ついに現実でもクライスラーが倒産しましたが、まさにデトロイトははむちぃ君が説明してくれた通りの状況なのだろうなと思わせる説得力がありますね。息子たちが

「父さんはまだ50年代を生きているつもりなんだ」

と語るように、時代の流れと人種問題の深刻さが見事に重層的に描かれています。
は: 主人公の癒しがたい記憶の中で朝鮮戦争を、CIAが偵察に利用したために東南アジアを追われてアメリカに移住せざるを得なかったモン族の登用でベトナム戦争を語ることにより、アメリカの病根をさりげなく抉り出しておりますね。
ゆ: そのアジア系移民を嫌い、黒人を嫌う白人層も決して単一民族では無い事もちゃんと提示しています。彼自身がポーランド系、飲み仲間の理髪店店主がイタリア系、建設現場監督がアイルランド系で、お互い聞くに耐えないような差別用語で相手を罵り合いながら仲良く日常会話を交わす様がとても興味深かったです。しかしどんな映画でもアイリッシュは飲んだくれなんですね(^_^;)。

は: 東南アジアのモン族の登用はおそらくハリウッドで初めてでしょうね。
ゆ: 脚本家の着眼点をちゃんと理解してそのまま現実化させるところが彼の見識の高さですね。モン族のコミュニティは本当に小規模でしょうし、まして俳優など殆どいないでしょうから、普通なら他の民族に置き換えてしまうんじゃないでしょうか。それをせず、モン族の全くの素人を何の逡巡もなく主役級に登用し、また、モン族の慣習も積極的に見せています。そして主役の二人はその期待に見事に応えていますね、まさにイーストウッド・マジックの醍醐味でしょう。
は: それではその後の展開を説明させていただきます。

 タオを自分なりの流儀で教育し、就職の世話もしてやり、タオの成長を喜ぶウォルト。しかし、タオが従兄弟のチンピラ・ギャングたちに報復のいじめを受けた事に激怒した彼は暴力的な行動で相手をねじ伏せてタオに手を出さないように警告するが、結局それは取り返しのつかない事態を招いてしまう。警察を信用せず届け出ないタオ一家をに痛切な責任を感じたウォルトは、怒り狂って報復しようとするタオを彼の自宅に閉じ込め、正装し、初めて神父の勧めに従い懺悔を行い、独りで決着をつけるべくでかけるが。。。

ゆ: 先ほどダーティ・ハリーを髣髴とさせると書きましたが、ハリー・キャラハンは悪を倒すためならどんな暴力も辞さないキャラクターでした。今回ウォルトに扮したイーストウッドはそうでは無い解決方法を選択します。
は: その自己犠牲の高潔さは感動的ですが、ずばりご主人様の好きな解決方法ではありませんでしょう。
ゆ: そうだね(^_^;)、個人的にはあれしか無いのか、という疑問はもちろん持っていますよ。結局

あんな奴らに対話による説得は意味が無い

というスタンスではハリー・キャラハンと何ら変わってはいませんから。
は: 「衝撃のラスト」を用意しないとハリウッド的傑作は産まれませんものね。

ゆ: ほ~、今日のはむちぃ君は奥様に洗ってもらっただけあって(以下略)、でもネタバレしない程度に一応説明しておきますと、実は「衝撃のラスト」というのは看板に偽りありで、物語はもう少し続くんですね。そのエピローグにより重苦しくも深い感動を残して映画は終わるわけですが、実は私がこの映画で一番素晴らしいと思ったのはラストシーンからエンドロールに移るところなんですよ。
は: 青く澄み切った空、ミシガン湖と思われる綺麗な湖。その湖岸道路をのそばをタオが駆るグラン・トリノが走り抜けていきますね。そこへクリント&カイル・イーストウッドマイケル・スティーブンス、英国のジャズシンガー、ジェイミー・カラム共作の主題歌が滑りこんで参ります。本当に美しい映像と音楽でございました。
ゆ: ややロング・ショットで湖岸道路を捉えられる場所にカメラを固定し、グラン・トリノが走り去って見えなくなってからも後続の車を延々長回しで撮ってそれをエンドロールのバックにしているんですね。その映像も故意に彩度を落として古き良き時代をイメージさせています。
は: なるほど、それで延々と車が走り去るだけのシーンなのに言い様の無いノスタルジアを感じたのでございますね。
ゆ: 主人公のウォルトが一番輝いていた、そしてフォードが世界に自慢できるグラン・トリノを作った時代古き良きアメリカへの祈りにも似た思いがこの長回しのシーンには込められていたと思うんです。
は: クリント・イーストウッド様を名監督と呼ぶに相応しい技でございますね。というわけで、GWに何か一つ素晴らしい映画をみたい、と思われておられる方がおられましたら是非ご覧下さいませ。

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2009/01/05

カンフーパンダ

カンフー・パンダ スペシャル・エディション [DVD]
はむちぃ: 皆様、こん**は、はむちぃでございます。本年最初の映画レビューはお正月という事でお気楽な「カンフーパンダ」から始めましょう。
ゆうけい: ハリウッド版パンダ映画で本家中国で賛否両論を巻き起こしたそうですが、果たしてどんなもんでしょう、若干の不安はございますが観てみましょうかね。

『 信じる心が奇跡を起こす!最強のカンフー戦士、“龍の戦士”に選ばれたのは、ぐうたらで食いしん坊のパンダだった!?
 美しい安住の地「平和の谷」には龍の巻物の奥義を得たものが史上最強の“龍の戦士”になるという伝説があった。ある日、極悪カンフー戦士のタイ・ラン(ユキヒョウ)が刑務所を脱獄、巻物を狙って平和の谷に迫り来る。タイ・ランに立ち向かう“龍の戦士”に選ばれたのは、何と、ぐうたらで食いしん坊のパンダのポーだった!カンフーを愛する心は人一倍、でもカンフー・マスターなんて夢見るだけのポーは、師匠のシーフー老師(アライグマ?)、憧れのカンフーの達人“マスター・ファイブ”(虎、猿、蟷螂、蛇、鶴)の力を借りながら、厳しい特訓を受け成長していく。
果たしてポーは史上最強の戦士となり、平和の谷を守ることができるのか!?そして、龍の巻物に記された、ある真実とは・・・?』

声優:
ポー: ジャック・ブラック
シーフー老師: ダスティン・ホフマン
マスター・タイガー: アンジェリーナ・ジョリー
タイ・ラン: イアン・マクシェーン
マスター・モンキー: ジャッキー・チェン
マスター・カマキリ: セス・ローガン
マスター・ヘビ: ルーシー・リュー
マスター・ツル: デヴィッド・クロス
ウーグウェイ導師: ランダル・ダク・キム

は: 。。。。。(-_-;)
ゆ: 。。。。。(--〆)
は: しょっぱなからトホホ賞の有力候補が現れましたね。
ゆ: Dreamworksも落ちたもんですな、というか、やっぱり西洋人からみりゃこんなもんですよ、みたいな。

は: 脚本は一応カンフー映画の作法を守っておりましたが少々安っぽかったですね。
ゆ: 少々では失礼でしょう、安っぽさ満点と言わなくちゃ。
は: 大体から

パンダの親が鳥

と言う設定からして訳分かりませんね。
ゆ: そうそう、出だしからしてナメてますね。スタッフが企画会議で

「ん?中国市場を開拓すんの?じゃ、パンダってやつを主人公にしたら?」
「人気No1の動物らしいしね、で内容は何にする?」
「やっぱ中国ったらカンフーでしょ!」
「じゃあ適当にジャッキー・チェンのナントカ拳の動物をからませてみますか」
「いいねえそれ、でもって格闘シーンのCGで中国人の度肝を抜いてやると」
「でもアニメでカンフーシーンって結構ムズイよ」
「そんなもん日本のアニメ見りゃ大抵見当つくでしょうよ」
「ま、そうだね、で老師みたいなのに適当に悟りの境地を語らせりゃ一丁出来上がりか」

ってなブレインストーミングしてるのが目に見えるようです。

は: とりあえずハリウッドですからそのCGはお得意のものかもしれませんが、それも見事に空回りしておりましたね。
ゆ: いくら格闘シーンで3D-CGに凝ったって、拘束されて20年も身動き一つ出来なかったユキヒョウがいきなり落下する岩石群をつたって上に登っていったり、蟷螂が吊り橋を一匹で支えたりしてちゃ、そりゃ物理上有り得んだろうと子供でも突っ込みたくなりますよ。
は: まっ、そんな事言ったら全ての修練・格闘シーンが成り立ちませんが(^_^;)
ゆ: いや、その辺にハリウッドの勘違いしてるところがあると思うんですよ。ああいう荒唐無稽な格闘シーンがそれこそ「絵空事」として成立するのはドラゴンボールのような2Dの世界だからこそだと思うんですよ。それを3Dの精密なCGでやるとかえって嘘臭くなっちゃう、という日本のオタクなら肌身に沁みて分かってる事が分かってないんじゃないですかねえ。

は: まあ、それもさることながらパンダ映画としてはパンダがあんまり可愛くないのが致命的な欠点でしょうね(笑。アメリカ人から見たパンダってあんなものなんでしょうか?
ゆ: ハリウッドも中国を巨大な市場とみて媚を売ったつもりなんでしょうけど、顔と体つきが声優やってるジャック・ブラックそっくりでしたな(爆。しかし、私がもっと許せなかったのは

絶滅危惧種パンダユキヒョウを善悪に分かれて戦わせる」

と言う点で、これは傲慢もいいところですね、ハリウッドだから何やっても良いってもんじゃないでしょう。
は: どうせなら谷口ジローの「約束の地」でのユキヒョウの表現を見てほしかったですね。
ゆ: おっ、はむちぃ君渋いところついてくるねえ。まあそれはともかく絶滅危惧種をあんな風に扱われて中国政府がよく怒らなかったもんですな。
は: ところがその中国政府が

「なぜ『カンフー・パンダ』のような作品が中国で製作されないのか」(Wikipediaより)

と言ったそうです。
ゆ: バカじゃないの?
は: CGの技術は劣っても中国映画もレベルが高いことを誇るべきですよね。
ゆ: ところがその中国をはじめとしてアジア諸国で軒並み史上一位の興行収入をあげたらしいんだよ(嘆息。さすがにアニメ先進国の日本ではそれほど話題にならなかったけどね。

は: 媚を売ると言えば声優陣も豪華絢爛でございますね。
ゆ: まあシュレックもそうだったからDreamworksの得意技なんでしょうね。ジャック・ブラックはまあこういう役にはぴったりですけど、ダスティン・ホフマンくらいの超大物になれば、担ぎ出される前にもうちょっと考えなきゃね。
は: ジャッキー・チェンルーシー・リュウもこんな映画に協力してちゃ「SAYURI」のチャン・ツイィーの二の舞になってしまわないか心配でございます。
は: ジャッキーがでルーシーがですからねえ、なんか無意識の差別感覚を感じますね。まあ二人ともあんまり台詞無かったけど(苦笑。でもってマスター5で一番活躍するのはなんですけど、これも絶滅危惧種だし、アンジェリーナ・ジョリーも国連難民高等弁務官事務所の親善大使までやってるのなら、もう少し脚本を吟味して欲しかったですね。

は: と言うわけで新年早々ご主人様ともどもぼやき倒してしまいました。
ゆ: まるでマシンガンズの漫才みたいでしたな(笑。まあ、子供だまし+黄色人種だましの映画であると申し上げておきましょう。

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2008/12/08

靖国 YASUKUNI

靖国 YASUKUNI [DVD]
はむちぃ: みなさまこん**は、本日は12月8日でございます。何の日かと申しますと、
ゆうけい: もちろん知ってます、ジョン・レノンの命日ですっ、はは、違うか!(ものいい、吉田サラダ風)
は: ま、ご主人様の世代にはそうでございますが、本日レビューの映画から推量してくださいませんと。。。(-_-;)
ゆ: わかってますがな、67年前の今日、真珠湾攻撃で日米が開戦したのです。
は: というわけでございまして、本日の映画は右翼左翼政治家マスコミを巻き込んで大変な騒ぎになりました、問題のドキュメンタリー映画「YASUKUNI」を取り上げてみたいと思います。あえて政治思想には踏み込まないゆうはむ映画レビューにしてはかなり危険な取り組みですございますね。

ゆ: まあ去年は「太陽」を取り上げていますから全く政治思想に関心がないわけではないんですが、今回は二つのモチベーションがあるんですよ。
は: ほう、ではその一つ目とは?
ゆ: 実は先日、田母神俊雄(当時防衛省航空幕僚長)なる御仁が「日本は侵略国家であったのか」という懸賞論文を書いて物議を醸したでしょ。
は: はいはい、政治家マスコミを巻き込んで大騒ぎになり、結局免職で無く、異動定年という形で決着されました。
ゆ: それそれ、そうなんだけど、大騒ぎした割りに論文の内容・質については語ってないでしょ。
は: 確かに防衛省幹部が「侵略戦争ではなかった」と発言しシビリアン・コントロールを乱したという点だけが取り上げられておりますね。
ゆ: で、調べてみたらここに載っていたんだけど、これがまあビックリ、たった9ページのいわば稚拙な感想文でおよそ論文の体をなしていないんだよ。
は: 確かに論文にあるべき要旨、目的、方法、結論、考察、引用文献と言う体裁がまったくありませんね。
ゆ: 当選させるほうもさせる方だけど、これで踊らされるマスコミもマスコミだね。おそらくこれは2チャンネル用語で言う「釣り」を誰かが意図的に仕掛けたと思うんだ。どこかの雑誌やネットには黒幕の推量が載っているんだろうけどね。

は: 国会招致にまで発展させた野党はまんまと罠にはまったと言うわけですか?
ゆ: そう、大笑いして拍手喝采してる奴がきっといるんだろうね。そう言う意味でこの映画にまつわる大騒ぎも一種の「釣り」だと思うんだ、それを堂々と主張してるのがいつも紹介してる「前田有一の超映画批評」なんだよ。
は: ふむふむなるほど、普段は冷静な前田様が「0点」をつけてかなり激烈な批判を展開されてますね。
ゆ: そうなんですね、ただそれを鵜呑みにしていてはいけないと思ってこのタイミングで観ようと思ったわけなんです。これが第二のモチベーション。
は: 了解でございます、そこまでご主人様が深く考えられておられたとは存じませず失礼いたしました、では恒例の内容紹介に参りましょう!

ゆ:、でもはむちぃ君!その前に一言言わせてくださいっ!
は: はあ、なんでございましょう?
ゆ: ものいいイロモネア出場権獲得おめでとう、違うかっ!
ゆ: 違いますっ!(--〆)

『上映中止の映画館も続出、政治家をも巻き込んで社会現象を生み出した問題のドキュメンタリー!!
真のアジア友好を目指す合作映画!!
東京・九段下にある「靖国神社」に関る様々な人々を、10年に渡って撮り続けたドキュメンタリー。毎年8月15日の終戦記念日になると、そこは奇妙な祝祭的空間に変貌する。旧日本軍の軍服を着て「天皇陛下万歳」と猛々しく叫ぶ人たち、的外れな主張を並べ立て星条旗を掲げるアメリカ人、境内で催された追悼集会に抗議し参列者に袋叩きにされる若者、日本政府に「勝手に合祀された魂を返せ」と迫る台湾や韓国の遺族たち。狂乱の様相を呈する靖国神社の10年にわたる記録映像から、アジアでの戦争の記憶が、観るものの胸を焦がすように多くを問いかけながら鮮やかに甦ってくる。そして知られざる真実がある。靖国神社のご神体は刀であり、昭和8年から敗戦までの12年間、靖国神社の境内において8100振りの日本刀が作られていたのだ。「靖国刀」の鋳造を黙々と再現してみせる現役最後の刀匠。その映像を象徴的に構成しながら、映画は「靖国刀」がもたらした意味を次第に明らかにしていく。
※靖国神社のご神体が「刀」であるという考えは、制作会社である有限会社龍影の見解によるものです。(AMAZON解説より)』

は: 散々前振りを展開した割には退屈な映画でございましたね。。。。。
ゆ: そうそう、内容を伴っていないのに大騒ぎになったところが田母神論文とそっくり!
は: いつもは「映画」としての評価を優先される前田様が内容の吟味に終始されておられるのも不思議でございます。
ゆ: そう言う意味では「釣り」の映画と分かっていて「釣られて」しまった面もありますね。一個の映画として見た場合、内容の掘り下げは浅いし、全体の構成、画質のムラ、ロケでのポータブルカメラのフレームワーク、そして編集と全てがアマチュアレベルだと思いましたね。ドキュメンタリー映画としては落第のレベルですね。
は: 公式HPを見ますと李纓と言う監督はそれなりの実績を持っておられるプロでございますが。
ゆ: ちょっと信じ難いですね~。

は: 靖国に刀を奉納する90歳の刀匠のインタビューと終戦記念日の靖国の騒動を交互に写しながら映画は進行していくのですが、肝心の刀匠のインタビューがはむちぃメ良く理解できませんでした。
ゆ: まるで噛み合っていないまま進んでいきますね。腹立たしいくらいいらいらしました。大体が、90歳の御高齢の方に政治思想を無理やり語らせようとする姿勢はいかがなものかと思います。インタビュアもインタビュアです、多分監督自身がインタビューしてるのだと思いますが、失礼ながらまだ日本語が十分お達者じゃなくて、あの程度の稚拙な日本語の質問では何ら有意な返事を引き出すことはできないでしょう。
は: どちらがわにも通訳をつけていただきたかったですね。もしあれが監督の「」だとすれば、最後に「私は小泉(純一郎)さんの靖国参拝に賛成」の一言だけを引き出したかったみたいな感じですね。

ゆ: というか、そこだけ辛うじて日本人でもディクテーションできたという感じですね。
は: では、前田様のおっしゃるようにやっぱり「0点」の映画なんでしょうか?
ゆ: 0点は厳しすぎるでしょうけどね、あの靖国での騒ぎは一応本当に起こっておるんでしょうし。
は: 靖国信奉派、反対派、宗教的違憲論者、合祀反対派それぞれの言い分はちゃんと語らせておられますしね。
ゆ: そう言う意味では意図的な編集は避けてますよ、と言うスタンスは守っているように思います。だから編集の仕方によっては結構しっかりしたドキュメンタリーになったかもしれないと思うと、少し未練の残る映画ではありますね。

は: では最後に一言お願いいたします。
ゆ: 靖国と言う存在にある程度の見識をお持ちの方にはあえて観るまでもない出来の映画ではあると思います。これから国際政治を勉強したい、と言う方にはどのように中立であろうと努めても、中国の方が靖国を語ろうとするとこのようなバイアスがかかる、と言う点を学んで欲しいですね。
は: もちろん日本による戦争被害者の立場からすると当然のことなのですが、ドキュメンタリー映画の難しさを痛感いたしますね。

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